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第8話(5)
「じゃっ!とりあえずかんぱ〜いっ!」
にこにこと笑顔で添さんがビールのジョッキを掲げる。
カラフルな色のグラスを持った女たちも笑顔でグラスを掲げて、僕と店長も一応ジョッキを上げた。
「えーっと、簡単に自己紹介するかぁ?」
「じゃあ、そっちからどーぞ!」
添さんがジョッキを置くと、あの千冬が笑う。
「じゃあ!添田風兎、23歳カフェ定員でぇ?」
添さんが店長を見るが、店長は目を合わさない。すぐにこっちを見られて添さんの視線に耐えかねた僕は
「佐倉遥斗です」
少しだけ笑っておいた。
「で、こっちがうちの店長、道前 雅美 な!」
添さんがまだ前を向かない店長の分も紹介して、自己紹介は女側へと移る。
「風兎と同高の千冬、24歳です!」
「千冬の同期の藍那 、23歳です!」
「千冬の同期の清華 です!よろしく!」
どの女もメイクには力入っているし、声は猫かぶりまくりの甘えた声。
そして、同期という言葉もいかに便利か思い知る。清華はたぶん20代後半かそれ以上。同期かどうかも怪しいがそこは誰も突っ込まなかった。
料理もある程度並んで席替えをすると、隣に来た藍那が僕の皿に料理を取ってくれて微笑む。後れ毛を耳にかけて見つめるそれは完全なアピール。
笑顔を貼り付けたまま場の雰囲気を壊さないように対応するが、僕は早く帰りたくて仕方なかった。
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