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第8話(6)
藍那から解放されてふと顔を上げると店長の腕にはあの千冬がくっついているのが目に入る。胸を押し付けて見上げる目。
吐き気がして僕は席を立った。
店長は特に嬉しそうでも、愛想よくしていた訳でもない。
いつも通りの無愛想で……むしろ、いつもより目付きは悪くなって睨んでいた気もするくらいだ。
「……やっぱり来るんじゃなかった」
顔にバシャバシャと水をかけて洗面台に手を付く。ポタポタと垂れる水滴を見つめてため息を吐いた。
僕と藍那は席替えをして、僕は千冬を挟んで店長と並び、向かいの席は添さんを挟んで藍那と清華が並んだ。
僕が席を立ったことで千冬は更に店長に身を寄せるだろう。
酒に弱い店長は量を抑えていたが、僕が席を立つ時に千冬は店長に酒を勧めていた。
あのまま飲んで、すぐ近くの店長のマンションに行くんだろうか?
店長があの千冬を抱く……。
「……やめて」
グッと拳を握ると、僕は席に戻った。
「さくちゃーん!酔っ……ん?濡れてんじゃん!水も滴るいい男風?」
添さんがヒラヒラと手を振るのを見て濡れた前髪を掻き上げる。
「添さん、店長これ以上酔うとまた面倒なんで連れて帰りますね」
よく見るととろんとした目をしている店長の腕を僕の肩に回して立たせると、はっきりと告げた。
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