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第11話「マジですよ?」

 朝食をちまちまと食べて……でも、食べ終わっても僕はなかなか立ち上がれなかった。  ずっと握り締めていたシンプルな鍵を見つめる。  これを持って店に行けば店長に会えるのに立ち上がれない。  店長の顔が見たくて仕方ないのに、何となくこのプライベート空間から出たくなかった。  特に何もない面白味もない部屋。  僕の部屋よりは生活感はあるが、ムダな物は一切ないシンプルな部屋。  でも、何となく漂う空気というか……店長の温もりを求めて僕は視線を巡らす。  少しだけ開いている寝室のドアを見ると、僕はやっと立ち上がった。  駆け出したい衝動も綺麗に片付けられた店長のキッチンが目に入って必死に抑える。  食べ終わった食器を運ぶととりあえず洗い物をして、流しに手を付いた。 「本当……何してるの?僕……」  ため息を吐いて項垂れる。  スマホの通知音が鳴ってもすぐには動き出せなかった。  やっと歩き出してスマホを見ながら寝室のドアを開ける。 『サク、今夜会えない?』  ラビからの誘いも憂鬱だった。むしろ、今のちょっと切ない幸せを邪魔されたようで僕はそのまま画面を閉じる。  いつの間にか綺麗に整えられたベッドに転がって、脇に放置されているまだ情事の跡が残ったままのシーツを抱き締めた。

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