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第11話(7)
大学が始まって大学もアパートも近い僕は3年で単位も既にそれなりに取ってあって余裕がある。だから、バイトに入ることは多かった。
だが、夜の時間は1年でまだ昼間は忙しい水城と芳井が入ることが多くて、僕は昼間に添さんや戸川と共に……だった。
というか、避けられていて夜2人にならないようにされていただけかもしれないが。
「……つら」
着替えを終えてまだ秋の気配はほとんど感じない道を歩く。
今日は店長が休みの火曜日で、姿さえ見ることはなかった。
裏口から店の外に出ても店長が住んでいる目の前のマンションを見上げることさえできなかった僕。
だが、フと顔を上げると少し先に店長らしき後ろ姿を見つけて僕は立ち止まってグッと唇を噛み締める。
「……っ」
遠ざかっていくその姿を追いかけたい気持ちと拒絶される恐怖と寂しさで押し留まろうとする気持ちがせめぎ合った。
「店長……」
ぽつりと呟いたそれに気づく訳もない店長はさっさと角を曲がっていく。
もう何日店長と話してない?このまま明日のバイトも避けられるの?
ギュッと手を握り締めて首を振ると、僕は勢いよく走り出した。
昼間のかわいい“さくら”なんて気にしないで本気で走る。
「店長っ!!」
叫んでそのシャツを掴むと、店長はびっくりしたような顔でこっちを見下ろした。
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