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第11話(8)

 もうすぐ大通りに出るその道は遮るものは何もない。  地下鉄の出入口が近いのもあって人々は足早に通り過ぎて吸い込まれていくし、どんどん吐き出されてまたすぐに去って行く。 「待って……逃げないで下さい」  ギュッとそのシャツを握ると店長は大きく息を吐き出した。 「……お前、バイト上がりだろ?飯行くから……それならお前も来るか?」  久々にちゃんと合った目。  それだけで何か泣きそうになって僕は何度もただ頷いた。  大通りを渡ってすぐに裏道に入る店長の後を付いて行く。  大学に入ってバイトか適度に学部のみんなと遊ぶだけだった僕はこの辺りは大通りと駅の向こうにあるオシャレな店が並ぶ通りしか知らない。  あとはほぼ夜に出歩く8駅離れた歓楽街のみだ。  ここは学生たちの多い洒落た街だと思っていたが、意外と昭和感溢れる町並みも残っていたらしい。 「ここ」  言いながら店長は身を屈めて暖簾を掻き分けながらガラガラとあまり建て付けはよくなさそうな古いガラス戸を引いた。 「あら、雅美ちゃん!」 「おばちゃん、ちゃん呼びやめてって」 「あら?今日はお連れ様?」  店長の言葉など聞いていない感じで白い割烹着を着た少しふくよかな女は微笑む。 「どうも、こんばんは」  ペコリと頭を下げると女はにこにこ笑いながら席に案内してくれた。

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