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第11話(10)

「……店長?」  腰を浮かせてヒラヒラと顔の前で手を振っても無反応で顔を近づけると、ガタンッとイスを倒して立ち上がって店長は僕との距離を取る。 「……だ」 「はい?」  よく聞こえなくて真っ赤な顔の店長を見上げると、店長は頭を掻きむしってからテーブルの上の冷茶器を荒々しく掴んでグラスに麦茶を注いだ。  また一気に飲み干してダンッと勢いよくグラスを置く。 「男は無理だ!ないっ!!」  わかりきっていたはずなのにドスンとそれは重く響いた。でも、 「わかってますよ!ただ……フザけてるんじゃなくて僕もマジだったって言いたかっただけです!」  にこっと笑って腰を降ろすと、茶碗を持って食事を再開する。 「大丈夫ですよ」  そろりとこっちを見た店長に笑いかけると、僕は最後のコロッケを取って思いっきり口を開けた。 「おいしっ!」  素朴なじゃがいもの旨味をとにかく味わえるホクホクのコロッケ。  優しすぎて溢れそうな涙を僕は味噌汁を飲みながら必死に押し戻す。  店長はノンケ。わかってる。  酔っていたからちょっと擦り寄ってくれたりしただけで、男とどうこうなる気は微塵もない。 『お前がゲイであることは否定しないけど、俺は理解はできない』  いつだったか言われたこともあったのに……ちょっと堪えられなかっただけだ。  僕が諦めたら……元に戻れるのだろうか?

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