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第12話(4)

 近づいてくるタクマを見てさすがにちょっと後退る。 「逃げんなって言わなかったか?」  笑いながら歩いてくるタクマを見て僕はとっさに家とは反対の方に足を向けた。 「本当、逃げんなよ。お前バリタチでネコやったことは一度もねぇってな」 「だから、何?僕をどうしようって?」  足を止めたら終わる気しかしなくて、たまたま青になった信号を見て長い横断歩道もタクマから目は離せないままで渡り切る。  渡ったところでどうしようもないのだが、タクマに道を塞がれて僕は裏道に入るしかなくなった。  早智子さんのお店が目に入るが僕はグッと唇を噛み締める。 「抱いてやるから来いよ!」 「僕、抱かれる気はないんだって」  前のように怒鳴られていないだけマシかもしれないが、人の気配もないこの通りはマズい。  まだ日が沈むまで時間はあるものの、高い建物に阻まれて光は届かず薄暗くて細い道。  そもそも逃げ場もないのはどうしたものか。 「はるくん?」  早智子さんの声が聞こえてそっちは見ずに慌てて走り出す。  巻き込む訳にはいかない。  何とか……少しでも遠くに!! 「へぇ……サクは“はるくん”って言うんだ?」  タクマの楽しそうな声を聞きながら僕はとにかく走った。

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