107 / 255
第13話(6)
僕も一口お茶を飲んでホッと息を吐くと、コツコツと病院の廊下にあまり聞かない靴音が響いた。
昨夜聞いたばかりのその音に身を強張らせると、早智子さんは不思議そうにその音がする扉の方を見る。
「はる!あ、すみません。来客中とは知らず。遥斗の兄の翔馬です。いつも弟がお世話になっております」
ノックをして入ってきた翔にぃは早智子さんを見て深々とお辞儀をした。
「あ、いえ。はるくんのお兄さんですか。立派な方でびっくりしました」
笑顔で話し始める2人を見ながら、とりあえず持っていた湯呑みを置く。
早智子さんのお陰で意外と和やかな雰囲気なのは助かったが、どうするか。
翔にぃのことだ。何を言い出すかは大体わかっている。
「あ、あなたが大家さんですか!?親身になって面倒を見てくれる方が居て、だから、あのアパートがいいと弟は聞かなかったものですから」
微笑んでいるがその目の奥が笑っていない。
「家賃なら出すからもっとセキュリティの充実した広いところにと何度説得してもその方が凄い人だって……」
「あら、そうなんですか。それは嬉しい!はるくんは大丈夫ですよ!しっかりした子ですから」
翔にぃの困ったような言い方も気にしないで、早智子さんは否定もすることなく微笑む。
ともだちにシェアしよう!