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第16話(2)

「あー、さくちゃんは年上にかわいがられる方が良さそうだよな!みたいだし、さくちゃんもまた合コンセッティングしてやるからな!」 「は?」  何か今かなり聞き捨てならない言葉が聞こえたような。  千冬といい感じ!?あの女と!?  店長の腕に絡みついて胸を付けたまま笑うあの姿を思い出す。  パッとキッチンに居る店長を見ると、 「そろそろ開店すんぞ」  店長は全く気にすることもなくコーヒー豆を挽いていた。  漂うコーヒーの香りも流れるいつもの音楽も心のざわつきは消してくれない。  店長があの女と……その姿を想像するだけでその場に崩れてしまいそうだ。 「いらっしゃいませー!あれ?さくちゃん!どーした?」  添さんに目の前で手を振られてハッとするが、笑顔が引き攣るのがわかる。 「さくらちゃん、やっぱりまだよくないの?」  客にも心配されて首を振るが、仕事をこなすだけで精一杯だ。  まだ自然と体は動くし、忙しい分、余計なことを考えなくていいのかもしれない。  だが、遅めの昼休憩に入って僕はスタッフルームのテーブルに突っ伏す。 「佐倉!今日はこれからもまだ客はどんどん来るからちゃんと食え!」  奥の小窓が開いて店長が言ってくるが、のそりと体を起こしても動く気力もなかった。

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