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第16話(5)

 バイトを終えてしまうと早智子さんのお店に夕飯を食べに行く気力はなくて、フラフラとマンションに戻った。  シャワーも浴びず、そのまま部屋に入って座り込む。 「……僕、どうしたらいいんだろう」  店長に女ができたかもしれない事実。  添さんが言ったのだからきっと……。  考えるだけで落ち込む。  事実なら同居なんてしていたら邪魔になるし、出て行った方がいいのかもしれないが……動けなかった。  何で店長は言ってくれなかった……?  いや、と思い直して首を振る。  店長から聞いたら、僕はきっと立ち直れなかった。  それほど……もう店長のことが本気だから。  膝を抱えて頭を付ける。   ◆◇◆◇◆◇ 「おい。佐倉」  後頭部に痛みを感じて顔を上げると、店長は思いっきり眉をひそめていた。 「電気も点けずに何してんだ」  睨まれているのに声が出ない。 「おばちゃんからお前来ないけど何かあったんじゃないかって電話来るし、部屋もどこも電気も点いてねぇし。一瞬ヒヤッとしただろーが!」  心配かけた……と思うのに、心配してくれたことが嬉しくて言葉に詰まる。 「っ!!お前、何泣いてんだ!!そ、そんなに怒ってねぇだろーが!!」  店長に言われて泣いてる?と思うものの、膝を付いてゴシゴシと雑に店長の肘で涙を拭われて、僕は近くにきたその顔に手を伸ばした。

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