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第18話「……違う」
夕方バイトに行く戸川と分かれて早智子さんのお店に行く。
寒くなってきた季節には嬉しいシチューに少しテンションが上がった。
「はるくん、勉強頑張ってるんだって?」
「そりゃ、店長が翔にぃ説得してくれたのに単位落としたりしていられないですからねぇ」
笑いながら手を合わせてすぐにシチューを口にする。
人参の甘さも、とろけるくらい柔らかい玉ねぎも……最高だ。
「雅美ちゃんが感心してたわよ」
「えー?いっつも怒ってますよ?」
「あれでも就職先とか色々気にしてるみたいよ?」
言いながらホイル焼きを出されて開くと鮭と何種類かのきのこが乗っていた。
「就職先……かぁ」
呟きつつ箸を伸ばすと珍しく早智子さんも向かいのイスに座る。
「まだ3年生でしょう?なのに、もうそんなことも考えるのねぇ」
「1年のうちから考えさせられてますよ?」
笑うと早智子さんは「大変ねぇ」と深い息を吐いた。
茶色いテカテカの手羽元に手を伸ばしてかぶりつくと柔らかい肉と優しい甘さが広がって思わず「うまっ」と声が出る。
「コーラと醤油と生姜で煮てるのよ」
微笑みながら教えてくれた早智子さんはじっとこっちを見てきた。
「何ですか?ちゃんと言って下さい?」
「いえね……はるくんもふぅちゃんみたいに雅美ちゃんのお店に残ってくれたら嬉しいなぁって……」
チラッとこっちを見たり視線を外しながら少し言いにくそうにする早智子さん。
僕は箸を皿に置いてしっかり座り直した。
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