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第18話(8)

 やっと硬度を落したモノを見つめて僕は深い息を吐く。  ナルの中に入った時、ただ“違う”と思った。  うねって厭らしく絡み付いてくる肉壁も的確に攻めてくる腰の動きも……かつてはそれも丸ごと支配してやりたくて挑んで腰を叩きつけていたのに。  あのガチガチに固まって苦しげに呻く店長が消されるようで悲しくて、ただ快楽に反応した自分が嫌になった。 「ほら。……拭いてやろうか?」  濡れタオルを見せられてとりあえずサッと拭って下着と共にスキニーも上げる。  丁寧に拭き取る余裕も、かと言ってナルにやってもらう選択もできなかった。 「お前がそんなになるとはな」  言いながら出されたのはふわりと茶葉のいい香りが漂う紅茶。  向かいのソファーに腰を降ろしたナルはしっかりスーツを着直していた。 「遥斗。本当に悪かった。セフレはもう止めてちゃんとしようとしたお前の気持ちを甘く見てた」  頭を下げたナルの後頭部を見つめる。 「俺との関係を清算する証拠だ」  ゆっくり頭を上げたナルは胸ポケットから名刺入れを出して1枚をしっかり両手で差し出した。 「……祠堂(しどう)祐太朗(ゆうたろう)」  名刺にある名前を読み上げて顔を上げると、ナルは頷いて微笑む。 「あぁ、俺もサクじゃなくて遥斗って呼ぶから、お前ももうナルって呼ぶな」  初めて見たその顔は仕事をする男のムカつくくらいカッコいい笑顔だった。

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