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第19話(3)
どれほどそうしていたかはわからないが、玄関の開く音で顔を上げる。
「おわっ!お前、どうしたんだ?」
廊下に座り込んでいる僕に気づいてびっくりしたような店長がこっちに来てしゃがんだ。
帰ってきた……という安堵と共にわずかに香るこの家にあるのとは違うシャンプーの匂いに顔をしかめる。
「……千冬さんですか?」
「あ?」
そんな決定的なことなんて聞きたくないのに口が止まらない。
「僕、本気だって言ってるのにまた女とか……」
ギリッと歯を鳴らすと、店長は僕の腕を掴んで立ち上がり引き摺るようにリビングに入った。
「酒、付き合え」
「……は?」
またフラれることを覚悟しようとしていた僕は間抜けな声を出して瞬きを繰り返しながら店長を見上げる。
雑にリビングのテーブルに投げ出されたのはコンビニの袋。
転がって落ちたのは缶チューハイ。
落ちた缶を拾って這うようにテーブルに近づいた僕は袋の中を見て頭を雑に掻きながらソファーに座った店長にゆっくり視線を移す。
たった3缶だがお酒の飲めない店長がチューハイを買ってくることなんて初めてだ。
まぁ、グレープ、桃、いちご……チョイスがかわいらし過ぎてちょっと和むが。
「お前も飲め」
「いや、店長……」
「明日休みだし問題ねぇ」
こっちに桃を投げてグレープの缶を開けると一気に煽る店長をただ見つめる。
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