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第20話(7)
「あ、それシリコン巻いてあるけど中はガッツリ金属なんで無理ですよ。跡付けたくなかったら大人しくして下さい」
その頬に触れて微笑むと、店長はヒクッと顔を動かす。
「ほら、朝ご飯にしましょうか。僕が食べさせてあげますし!」
「フザけんなっ!」
「店長、僕、今日1限なんでのんびり我儘聞いていられないんですよ」
スッと目を細めて腕を引くと、店長はバランスを崩しそうになりながら舌打ちをして付いてきた。
「ちょっと待ってて下さいね」
僕は店長をイスに座らせてパーカーを肩に軽く掛けるとキッチンに入る。
早智子さんからもらっていたクロワッサンに切れ目を入れてレタスとオムレツを挟むとオレンジをカットして皿を運んだ。
「すぐコーヒー持って来ますね」
戻って抽出を見守りながらドリップを終えて香りを楽しみながら店長の前に運ぶ。
「先に食べます?それかコーヒー?」
「コーヒー」
眉をひそめた店長に言われてカップを近づけると、店長は深く息を吸ってから口を付けて目を閉じた。
「マンデリンはもっと抽出時間短くしろ」
「さすが、よくわかってますね」
「ナメんなよ」
睨まれて素直に謝る。
文句を言われながら食べさせて……
「もう満足だろ!いい加減外せっ!」
大学に行く準備をしていた僕の背後で店長は暴れたせいでパーカーも肩から落としながらまた喚いた。
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