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第21話(2)
「遥斗ー!今日は終わりでしょー?オープンしたフルーツショップが凄いらしくて!一緒に行かない?」
「あー、ごめん。今日はうちの狂犬が涎垂らして待ってるから」
授業終わりに声を掛けてきた女を見て、見覚えはあるけど誰だっけ?と思いながらも笑顔で返す。
「えー!犬飼ってるのー?見たーい!」
「今躾けてるんところだから……ごめんね」
謝って小走りで建物を出るとそのままいつものようにエスカレーターでゆっくり降りず階段を駆け降りた。
走ることなんて普段は絶対しないのに今はすぐにでも店長に会いたくて。
マンションを出る前に必死に睨んできたその顔を抱き締めたくて……「寒い」とみんながコートを合わせる中、僕は薄く汗をかいて走った。
◆◇◆◇◆
玄関の前で息を整えながらドアに耳を付けて中の様子を窺う。
しばらくそうして集中しても何の物音も声も聞こえなかった。
ゆっくり鍵を開けて中に入ると、
「んっ……はぁっ…………あっ……」
聞こえてきた声に口の端を上げる。
足音を忍ばせながら一旦自分の部屋に入ると荷物を置いて店長の待つリビングに向かった。
ドアを開けるとビクッと跳ねてキュッと口を引き結ぶ店長。
「へぇ……一応ちょっとはイった?」
床にとろりと零れている白濁を見て笑うと、店長は慌ててこっちに背中を向けた。
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