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第21話(2)

 僕は物心つく前から父と翔にぃと共に伯父の道場には通っていたが、その背負投げを見てからは本気で柔道にのめり込んだ。  体格には恵まれなかったが、僕は中学でも県でそれなりに勝ち進むくらいになる程に。  まぁ、その辺りで僕はゲイかもしれないと悩み、寝技なんてかけられたらドキドキするようになって成績は残せなくなったんだが。 『らしいな。伯父さんに「遥斗を跡取りにしたい」って言われたって父さんが笑ってたぞ』  中学いっぱいで柔道を辞めてしまった翔にぃはどちらかといえば僕が柔道を続けるのは反対していた。  かわいらしさのカケラもない柔道を僕が続けるのは嫌だという謎の理由で。  ある意味今でも辞めずにいる理由の1つはそんな翔にぃへの抵抗かもしれない。 「……翔にぃ、僕、今、あのカフェだけじゃなくて翻訳から通訳とかも引き受けてる会社の手伝いもしてるんだ」 「じゃあ」 「そのままそこで就職すると思う」 「そうなのか?」  とりあえず、決めた将来のことを口にすると翔にぃの声に喜びが混じった。 「この後期でほぼ単位は取り終わって、あとはゼミだけになるから……来年度はほとんど授業もないし通訳としての勉強もするつもり」  祠堂さんと話したばかりの将来を口にするのはまだ不思議な感じがする。  でも、僕としては学生から社会人として、店長の背中を追う新しい道だ。

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