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第23話(8)

「フザけんな」  呟いて店長はガツガツといつも以上のスピードで料理を平らげ始めて、僕はため息を吐いてイスに座る。  僕がナイフを持つ頃には店長の皿にはカツレツの姿はなくなり、ご飯も半分以下になって惣菜だってタッパーの底が覗くようになってきていた。 「佐倉」  もそもそと食事を進めると、呼ばれて顔を上げた僕の口に早智子さんの作ったロールキャベツが押し付けられる。 「ちょっ……デカ……」  意味がわからないまま首を振って逃れようとしてもグイグイと力づくで押された。  切ってくれてもいない大き過ぎるそれに顎が外れそうになりながら何とか口に入れると、店長は無言で立ち上がってキッチンに入っていく。 「……せめて「あーん」とか言ってくれればいいのに」  わざと聞こえるように言っても反応はなかった。 「もう尻の穴まで舐めてんだから照れなくてもいいのに」  口を尖らせて食事を進めると、しばらくしてコーヒーのいい香りがしてくる。 「あ、モカですか?」  4年目になったこのバイトで覚えたコーヒーの匂いを嗅ぎ分けると、店長は無言でカップを運んできた。  カップをそのまま受け取って口を付ける。 「あれ?」  確かに苦味が少なくスッキリとした味わいはモカだと思うのに……いつもよりふわっと甘みが強い気がした。 「それはモカハラーだ。いつものモカマタリじゃねぇ」 「新しいの入れてみたんですか?」 「上級品だぞ」 「え?」  新しく提供するならその特徴を覚えておこうと思ったのに店長は思いっきり睨んできて僕は戸惑うことしかできない。

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