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第25話(3)
「雅美さん?」
「うるさい!」
「ちゃんと話して下さいよ」
逃げるその顔を再び両手でしっかり挟んで捕まえる。
「言って。ちゃんと教えて」
「…………昼間の……誰だ?」
しばらくは黙っていたが、雅美さんは目を逸らしたままやっとボソボソと声にしてくれた。
「昼間?」
言われて少し考えてから思い出す。
“ラビ”のことか!と思いつつ下手にそんな名前を言って大丈夫か?と考えた。
明らかに出会い系専用の呼び名で雅美さんを不安にさせたくなかったから。
「あの人はただの知り合い」
微笑んでも雅美さんの表情は緩まない。
「……セフレだろ?」
不安に揺れたような目がやっとこっちを見て掠れた声も少し震えている。
「いや、もう……」
言いかけて僕は口をつぐんだ。
今は関係なくても僕とラビに体の関係があったのは事実だ。
「あの人は……」
「まだ会ってたんだろ?」
寄った眉にキスを軽くして首を振る。
「ちゃんと話すから聞いて」
目を合わせて伝えると、雅美さんは少し間を空けてから小さく頷いた。
「この前、祠堂さんのとこで……あ、祠堂さんってわかる?」
嘘は吐きたくないし、雅美さんの反応もしっかり気にする。
「お前がやってる翻訳の?」
「そう。そこでチラッと会ったけどもう数ヶ月振りだよ。連絡先も知らないし」
眉から目元、鼻、頬とキスをして口にしようとすると、雅美さんは僕の肩を押して少し距離を取った。
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