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第26話(6)

 雅美さんが空港まで運転して見送ってくれるはずだったがそれは無理で、タクシーに2人で乗り込む。  ダルそうに動く雅美さんはかなり辛そうで歩くのもぎこちない。  それだけ無理をさせた自覚はあるが、手を握っても振り解かずシートに身を預けている姿にまた愛おしさが込み上げる。 「雅美さん……むしろ、帰り大丈夫ですか?」 「……何とかなる」  不安になって聞くと、雅美さんは片目だけ開けてまたすぐに閉じてしまった。  添さんが「最後また送別会でもするか?」と言い出したが、戸川が「ゆっくり準備させてあげましょうよ」と僕と雅美さんが2人で出発前最後の夜を過ごさせてくれたのはよかったのか、悪かったのか。  目を覚ました雅美さんにさすがに跡を付け過ぎだと怒られる覚悟もしたのに、身体に残るキスマークを指で撫でる姿にまた熱を溜めてしまったのは僕。  時間がないのにヤってしまって、雅美さんはもうまともに立てなくなってしまった。  それでも、家を出る直前に僕の鎖骨辺りに雅美さんもキスマークを付けてくれた。  その時の顔を思い出すだけでちょっと泣きそうだ。 「イギリスって遠いですよねぇ」  呟くと、雅美さんはゆっくり目を開ける。  腰を押さえながら体を起こしてこっちを見るとフッと小さく笑った。 「グダグダ言ってねぇで、色々見て何でも学んで来い。吸収しまくって力にして来い。……ちゃんと待っててやるから」  最後の方はそっぽを向くその赤い耳を見て、僕はそのまま抱きつく。  僕の想いを伝えるように、その温もりをお互いに刻み込むように。

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