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第28話(9)
「違う、違う!信彦 くんはお店の仕込みあるし、花音 を見ててもらってるだけ。チューとかまだ子供には早いところ見せるとよくないと思ってね」
笑う雪乃さんを見てホッとしていると、雅美さんはコソッと逃げの姿勢をとる。
何となくその腕を掴んで留めると、雅美さんは舌打ちをしてグラスにワインを注いで一気に煽った。
「信彦くんは来れない代わりにあのケーキにお祝いの気持ち込めてくれてるよ!で、あの文字はお兄ちゃんが自分で書いたんだけど……何度もずーっと練習してたから綺麗だったでしょ?」
いたずらっぽく笑う雪乃さんを雅美さんは睨む。
だが、これ以上余計なこと言うなオーラも無視して雪乃さんは僕をゆっくり見た。
「お兄ちゃんはずっと自分のことは後回しにして私のことを優先させてくれた。お母さんが亡くなった後もずっと。だからね、本当に幸せになって欲しいの」
僕が掴んでいる雅美さんの手ごと雪乃さんは持ってそっと包む。
「あんな幸せにそうなお兄ちゃん初めて見た。ま、ここまで喉枯れてるのはちょっと引くけど」
ペロッと舌を出して雪乃さんは笑った。
「てめ……」
赤くなりつつ睨む雅美さんを見て雪乃さんが逃げて行く。
そんな2人を微笑ましく見ていると、僕のスマホが着信を知らせた。
ディスプレイに表示された名前を見て固まる。
それは翔にぃからの電話だった。
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