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第28話(10)
無視する訳にもいかずに出ると、
「はる?とりあえず、お帰り」
意外にも翔にぃの声は落ち着いていた。
「ただいま」
それでも緊張はする。
「今、まだパーティー中か?」
「え?」
ドクンと心臓が大きく音を立てて一気に体温が失われる気がした。
もしかして……翔にぃも知ってる?
だが、しばらく沈黙が続き僕もなかなか発する言葉も浮かばない。
「……はる。さすがに祝福はできない」
低い絞り出すような声を聞きながらギュッと耳元のスマホを握った。
「何度も道前さんが来て話して……あの人がいい人なのはわかる。本気でお前のことを考えてくれていることも。でも……今日そこには行けなかった。祝ってはやれない」
翔にぃの言葉にただ頷く。
初めからわかっていた。
たまたま今、この店に集まってくれたみんなが温かいだけで認められないってことは。
「はる……道前さんにも言ったけど、父さんと母さんには言わないで欲しい。今すぐには無理なんだ。俺だって理解できないから」
涙の気配を感じるが僕はスキニーをキツく握って耐えた。
「でもな。落ち着いてからでいい。会いに来い」
「……え?」
「結局、妊娠発覚して俺たち結婚式やれなかっただろ?写真撮って食事くらいしようと思ってるから」
翔にぃの声が幾分か柔らかくなった気がする。
電話の向こうから僅かに聞こえる子供の声。
約1年前の僕が留学してすぐの秋に結婚するはずだった翔にぃは今は1児の父だ。
その新しい家族に会いに行ってもいいなんて……さすがに涙を止められなかった。
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