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羨望②

 日曜日。  南から9時からだからな、絶対来いよ!、と聞いてたにもかかわらず10時に家をでた俺は、いつも通りにゆっくり学校へと続く坂をのぼっていく。  ちらほらとオレと同じ方向へ歩いていくやつらもいて、今日は休みなのに人が多いなーなんて感じてた。  しかし体育館に着いて、それが尋常じゃないコトに気付く。 「……なんだ、これ」  だって、体育館周囲はイベントでもやってるのかってくらい、人でうめつくされていて。うちの高校の制服以外の子や、はたまたどうみても学生には見えない人もいる。  まさか……  これはみんなバレー部の試合見にきてんのか?  慣れない状況に少し戸惑いとしながらも人混みをかき分け体育館内へはいる。  何故か少しの緊張と興奮。  ……俺はいつの間にか、興味を持ち始めていたんだ。  こんな大勢から期待されるバレー部に。  そんな中で特別扱いされているイヅルハルカに。  そうしてついた体育館内は、すでに熱気と興奮に包まれていた。 「サーブ一本っ!サーブ一本ッ!」 「イヅルくーん!」  決められたリズムで飛び交う応援とキャーキャーはしゃぐ女の子の声援。  スコアは3セット目。ウチの学校がすでに2セットとっていた。24対24でラリーの大事な決め時。  サーブゾーンに立って、ボールを軽く叩いて感触を確かめているのはイヅルだった。  そうして、俺が体育館内へ足を一歩踏み出した瞬間、ちょうど試合開始の短い笛の音がした。  タンッ、タンッ とボールを軽く2、3度床に跳ね上げて。  ボールを天井に投げたあいつは助走をつけて高くジャンプする。  コートに綺麗な三日月が描かれる ーーダンッ!  大きく反り返ったその背が弓のようにしなったそのすぐ後、風を切り裂く音と一緒に、たった一瞬でボールが相手コートのバックラインぎりぎりに決まった。  ピッ!!  指さす審判。  独特なジャッチによる判定はもちろん、in。  一瞬シン……とする館内。  次の瞬間、わぁーっと振動するかのような声援が響き渡る。 「すっげーッさすがイヅルッ」 「ナーイサー、ナーイッサー、イヅルッ!」 「キャー!もー一本ッ」  再び飛び交う声援。  俺の瞳はその声援を一斉にうける、イヅルの姿にくぎづけになった。  すげー……  感想としてはたった一言しか言えることはない。だって俺はテレビとかで流れていれば見ることはあるけれど、そんなにバレーが好きってわけじゃないし。スポーツとしてはサッカーとかバスケのほうが好きだし。  それでも、今のサーブがすごいものだったと言うことはくらいはわかった。  だって、たったその1プレーを見ただけでなのに。  それだけで、この空間の熱気に、まだ慣れもしないうちに、あいつの応援をしたい、しなきゃいられない、そんな気分にさせられたのだから。 「イヅルーーっ!もう一本ーッ!!!」 「サーブ1本ッ!サーブ一本ッ」  再度沸き上がる声援の中、再び審判の笛の音がなる。 ピッ!  イヅルがボールを叩いて軽く跳ねさせる。  再びイヅルの体がコートに反り返る。  気付いたときにはダンッという音ともに、床にたたきつけられたボール。  それはさきほどと同じく、相手コートのバックラインギリギリをついた。 「わぁーッ!よっしッ!」 「きゃーッ!」  審判の判定を前に、勝ちを確信して盛り上がるギャラリーに俺の鼓動も高鳴っていた。  すげー……  ほんとにすげーじゃんっ!イヅル!!  チームメンバーと手を叩き合うイヅル。  そのとき、少し遅めの笛が響いた。

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