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羨望③

 その判定には誰もが驚いた。  ーアウトー  4隅でラインを判定する判定員。そのうち3人はイン。  でも、一番重要なバックライン沿いに立つ判定員だけはアウトを記していた。  会場内がブーイングとざわざわした話声で包まれる。 「マジかよーッ!!ぜってぇインだろ、今のーっ」 「ひでーっ」  口々に騒ぐギャラリーをよそに試合は続けられて、結局判定はアウトのままで、サーブ権交代。  流れを乱されたまま、うちの学校はそのセットをおとして、それでも4セット目をなんなく取り返して、試合は終了した。  でも、そのサーブの後もイヅルの活躍はその後も目を奪われるものばかりだった。 『あんなすげーヤツと同じクラスだなんて、興奮しないわけねぇよッ』  南に言われた言葉に俺は胸の中で頷いた。  今日のイヅルの姿をみて、言葉では言い表せないほど、胸が熱くなっているのがわかった。  うまく言い表せないけれど、気持ちが高揚していたんだ。 ◇  試合の後、大勢のギャラリーが立ち上がり、外へと流れ出す。その流れに沿って帰ろうとする俺を後ろから呼び止める声がした。 「日向ーッ!」 「あ、南」  駆け寄ってきたのはジャージをきて、タオルを首にまいた南。 「マジで来てたんだなっ!」 「いや、お前が絶対来いっつったんだろ?そうじゃなきゃなんで日曜日に学校なんかくるかよ」  南はまぁまぁと抑えるようなジェスチャーをして、息を整えてオレに問う。 「……んで、見た?」 「見た」 「イヅルハルカ、すげーだろ??」 「すげーね」 「だろー?!来たかいがあったろー?」  俺の言葉に満足そうにうんうんと頷く南。  そんな南を客観的に見つめる俺。  ……南、お前は一体イヅルのなんなんだ  そんな会話をするオレたちに近づいたきたのは話題の中心人物だ。 「ヒナ!」 「あ、イヅル……」 「え?!あっ、イヅルハルカッ!オツカレ!」  タオルで汗を拭いながら、体育館入口にいる俺達に近寄るイヅル。  途中、周囲の女の子からキャーキャーと黄色い声がとぶ。  ……そりゃ、あんだけ活躍すりゃ、モテて当然だよな  羨ましげにその姿をみる俺をよそに、当の本人はそんな女の子の声なんて聞こえないかのように、まっすぐに俺らのもとへと走り寄ってくる。 「ヒナ、なんでいんの? もしかして……わざわざ俺の活躍を見に来たって?」  からかう口調ではありながらも、ニコッと笑いかける笑顔には全く嫌みがない。  なんだか今日はそれが一層まぶしく見えて。  俺は意味もなくイヅルから顔をそむけ、照れ隠しのように南を見て話した。 「アホか。南がどーしてもこいってゆーから仕方なく、な」 「え?!なんだよ俺!?」  おどける南に笑うイヅル。  なんらいつもと変わらない光景。  ……変わらない光景なのに。 「どーした、ヒナ?」 「日向?」 「……なんでもねぇよ」  俺はイヅルの顔が見れなかった。  今日のイヅルはなんだかまぶしくて、まぶしくて……  俺とふざけた事で盛り上がる、いつものイヅルとは別人のようで。  ふと、瞳が合うと……緊張してしまう。 「? ヒナ?」 「あーっ!!わかったぜ日向!!あまりにもイヅルハルカがかっこよくて、今更ながらに緊張してんだろー!」 「ーッ、るせぇよ!」 ーーバカ南 図星なんだ。 ……黙っとけ!

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