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羨望④

 少し静かになった俺に一瞬驚いたように目を開くイヅル。 「マジで?なんか調子くるうなぁー!お前にそんなん言われると照れるじゃん!」 「わっ」  そうして言葉と一緒に俺の頭をわしづかみにして、わしわしと揺する。 「ーっお前……!俺が髪触られんの嫌いだって知ってんだろーが」 「わざとだし」  イヅルの行動にキレた俺は伏せてた顔をあげる。 そうして頭を掴む手を振り払い、イヅルを睨みつけた。  瞳が合うと、そこにあったのはいつもの笑顔だ。 「あ、ヒナが元のヒナにもどった。あーすっきりした。さっきまでのヒナ、静かすぎてマジで気持ち悪かったわ」 「き、キモチワリィって……イヅル、お前なぁ……」 「まぁまぁまぁ」  ……なんなんだよ  せっかく人がお前を見直していたってゆうのに。  そんな時、2人の背後から大きな声が聞こえてきた。 「イヅル!南ッ!!片付け手伝え!」 「わ、ヤベッ」 「ーーッス!!今いきます!」  イヅルと南が慌てて振り返り、声をかけた先輩らしき人に勢いよく返事をする。 「んじゃ日向!俺らいくわ」 「おー」  タオルを首からとってかけだす南。イヅルもその後を続いてゆっくりと歩いていく。……と思ったら数歩あるいた後、何か思い出したかのように戻ってきた。  そうして俺の顔のそばでぼそっと一言言い残して、コートへ戻っていく。 『オマエまでそんな事いうなよ』  …………  って  ……どーゆー意味だ?  俺はイヅルに言われた言葉を考えながら、体育館を後に帰り道を歩く。  そうして家がみえてきたころ、ようやくその答えに気付いた。  そういえば、前にあいつは言ってたな。 『俺、特別扱いとかマジ苦手』  自分を普通じゃない、違う存在だと最初から認識する、そんなやつらが苦手だって。  媚びをうるような奴や、あからさまにキャーキャー騒ぐ、鑑賞様にしか自分を求めない人たち。  『俺は普通なのにさ、勝手にもてはやされんだよな。それがたまにすげぇ嫌になる』  期待や希望。  みんなに羨望される存在。  きっとそれはかなりのプレッシャーなのだろう。 「……普通、か……」  家の前まで着いて、ぼそりと呟く。  普通にしか扱われた事のない俺にとっては、イヅルを取り巻く環境は羨ましいかぎりだったけど。  ……あいつにはあいつなりの悩みがあったんだ。

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