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羨望⑤
◇
慣れないものを見に行ったせいか、家に着くなり自室のベッドに寝転がり、いつの間にかそのまま寝てしまった。
下の階からの母親の声で目が覚めた時には外はもう夕暮れで。
「ナオー!夕飯だっていってんでしょー!」
「……っ。ぁ……今行くーっ!」
寝ぼけ眼をこすりながらも、ゆっくり起き上がり、時間を確認しようと携帯を探す。
「……?」
上着、ズボン、枕元……
部屋中のどこを探しても携帯は見当たらない。
「え、嘘だろ?」
下まで階段を駆け降り、家電で自分の携帯にコールする。
「……」
やっぱり、ない。
朝、学校へでかける時はあった。確かにズボンのポケットにいれたはずだ。でも、かえってきてからはすぐに寝てしまって携帯は見ていない。
……もしかして、学校??
体育館の中は本当にすごい人混みだった。あんな中で携帯が一個落ちてても、誰も気付きはしないだろう。
でも
「あいつらなら……」
みんなが帰った後、片付けをしていたバレー部員。イヅルや南なら落ちてる携帯に気付いたかも……
押入れのドアを開けて取り出したのは卒業アルバムだ。
イヅルの番号は携帯にしか控えてないけど……南のはわかる。
「……あ、南か」
『あれ、日向?どーした?』
早速アルバムに書かれていた南の家に電話。
でてきた南の姉ちゃんから聞き出したのはやつの携番。
「今日はお疲れ。もう部活は終わりか?」
『あー。3時に今日は切り上げてみんな休んでる。ってかどーしたー?』
あくびする南。
応援だけとはいえ、疲れてるんだろう。
「あー……ちょっと聞きたいんだけど……体育館に携帯落ちてなかったか?」
『は?ナニおまえ、携帯落としたの?馬鹿だなぁ~!なんか2、3個落とし物に携帯あったぜ?』
「マジで?」
危ないところだった。
たかが携帯といえど、されど携帯だ。
見られたくないものだってある。知らないヤツに拾われてたりも嫌だけど、クラスメイトに拾われるとかも洒落にならない。
壁にかかっている時計の針は6時をさしている。
休みだけど、部活の後、誰か一人くらいは残ってる先生がいるかもしれない。
「ありがとな。行ってみるわ」
南に感謝をつげて、俺は本日2度目の通学路を歩く。
5月だというのに、もうだいぶ日が長くなっていて。夕焼けがゆっくりと山へ沈むころ、俺は学校へ到着した。
校門をぬけて裏庭をとおり、体育館の入口までついた俺はダメもとで入口のドアを遠慮気味に押してみる。
……開いている
「うそ……マジか?」
予想に反して鍵が開いていた体育館。ゆっくり扉を開けて、そっと中に入ると、なぜか一番奥の一面だけに照明がついていた。
……?
誰かいるんだろうか?
なぜか当初の目的も忘れて、俺は興味本位で照明のつく奥の一面へとゆっくり歩き出していた。
よく見れば、その中央に張られているのはネット。周辺にはバレーボールがいくつも転がっていた。
……バレー部か?
誰か残ってんのかな?
さらに近づくと、一番奥の右端……ちょうどサーブラインに立つ、人影が見えた。
遠目から見てもすらりとした長身のその影は、2、3度軽くボールの感触を確かめるかのように床にたたきつけて
次の瞬間、大きくあげたボールに向かって、高くジャンプした。
コートに弓なりになった背が三日月を描く。
イヅル……!
バシッと相手コートのライン上に落ちるボールをみて、首をかしげる姿。
そこにいたのは……イヅルだった。
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