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羨望⑥

 なんで……  辺りを見渡しても、そこにいるのはイヅル一人だった。  何してんだ、こいつ……  イヅルがふぅと息をついて、片腕で汗を拭った。    『今日は3時には解散。みんな休んでるぜ』  南の言葉が頭をよぎり、壁際の時計に目を向けると、針はもう7時を指していた。  タンッと再びボールを軽くたたきつけ、高く高く上へと投げる姿を凝視する。  イヅル……  バシッとボールが落ちたのは練習試合でアウトの判定を受けた、相手コート右側のバックラインだった。  それを見て、イヅルは小さくうなづき、そうして再びボールを軽くたたきはじめる。  ……お前  ずっとこんなーーー……  自然と握りしめていた、空の拳に力が入った。  みんないないのに……  試合には勝った。  あの1セットはお前のせいじゃない。      なのに。  イヅル……  俺は体育館の中央に立ち尽くし、そこから一歩も動けなかった。  イヅルの見たことのないような真剣な姿に、かける言葉すら見当たらなかったんだ。  以前の南の言葉を思い出す。 『やっぱさー、イヅルハルカはちげーよ!同じ練習してんのに差がつきすぎだよ。いーよなぁ天才っつーのはさー!』  ……なんだよ。  嘘つくなよ、南  イヅルはただの天才なんかじゃない。  俺は相手コートに向かって、何度も何度もサーブを打ち続けるイヅルの姿を静かに見つめる。  イヅルは……人一倍努力してるんだ。  こいつは努力する意味を知っている天才なんだよ。  ーーだから、きっと無敵なんだ。  前に、俺もついイヅルに言ってしまったことがある。  イヅルは言葉にすら出さなかったけど、その瞳は明らかに否定を印していた。  ……そりゃそうだ。  イヅル、お前の気持ちがようやく少しだけ、わかった気がする。 [天才]  そんな一言で片付けられることに納得できるわけがない。  だらだらと額から汗を流しながら、でも、それを拭うことなく、イヅルはひたすらサーブを打ち続けている。  次第にその下降点がある一点に定まってくる。  まるでビデオをみてるみたいだった。  徐々にイヅルの打つサーブは、すべて一定のバックラインの上に重なっていった。  イヅルは才能の統べてを努力で引き出すことのできる…… ーー『本物』、なんだ  一度目的とするその一点をついたイヅルのサーブは、次からはまるでなにかに引き寄せられるかのように、的確にそこをついていた。  なのに何度も手を休める事なく、この感触を忘れないようにするかの如く、ひたすらサーブを打ち続けるイヅル。  ……かける言葉は見当たらなかった。  ただ単純に、俺はイヅルのプレーにみとれていた。  汗を拭わず、静かに目標だけを見つめるそいつの魅力に、かっこいいなんて。  バレーに関する知識もない俺には、そんな言葉でしか表現できなかった。  でも、そんな俺にも確かに響いていた。  心奪われたんだ。  イヅルハルカという男の存在に……

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