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彼と彼の事情②

 彼女の名前は高宮雪。  こう言ってはなんだけれど、ほんとに名前のまんまの女の子って感じの子。  色白で、華奢で、かわいくて。  なんだかほわわんとしてて、お上品なお嬢様みたいな。  ……そんな感じ  うちの学年ではかわいいってちょっと評判な子だった。でも、イヅルのファンだって周知の事実だったから、イヅルが相手とあれば知っていて雪ちゃんにアピールする強者はなかなかいなかったけれど。  そんな強者が、ここに一人。 「今日もきてたぜ?雪ちゃん。マジかわいかった」 「ああ、またきてた?」  休み時間。  雪ちゃんの登場に興奮する俺の横で、イヅルは全く興味なさそうに雑誌を読んでいる。 「なんだよ、その返事ー。イヅル、マジ贅沢だよなー!お前雪ちゃんにまでそんな態度なのかよ」 「そんな態度も何もなぁ。俺、あの子嫌いだし……」  イヅルはちらりとこちらを向いた後、軽く首を傾げてから、再び雑誌をめくり始める。  そんな態度に少しむっとした俺は、イヅルの前の席を陣取り、奴が途中まで開いていた雑誌を強引に閉じた。 「「嘘だろ?」」 「お前、どのページみてたかわかんな……「お前、どんだけ理想たけぇんだよ?マジかわいいじゃん、雪ちゃん!」  イヅルは読むことを諦め、閉じられたままの雑誌を掴んでから、呆れたように溜息をついた。 「ヒナ、あんなんが好みなのかよ」    その言葉にカチンときた。 「あんなんて……。いや、いくらイヅルでも、そういう言い方はなくね?お前のことか気に入っていつも来てくれてる子だぞ。あっちがお前のこと知らないくせにいってんのが気に入らないなら、お前だって、あの子のこと知らねぇじゃん。いい気になってんの?」 「誰もそんな事言ってないだろ」  向き合って視線を合わせる俺たちはいつのまにか睨み合っていた。  ……だってそうだろ?  人がいいと思ってる子のことを……そんな風にいう事ないだろ。俺が頭にくるのは仕方ないはずだ。 「ま、いいや。とにかく!今まではお前に遠慮してたけど……お前がそんなんなら、俺が雪ちゃん狙うからな」 「……そもそも俺は関係ないし。ヒナの勝手にすればいいじゃん」  言いたいことは言ったとでも言うようにふいっと視線を反らせて再び雑誌をめくるイヅルに、俺の苛立ちはさらにましてくる。 「……わかった。お前がそうゆうならもういい。あとで悔しがってもしらねぇからな」 「悔しがることは絶対にないと思うけど」  俺の言葉にイヅルは今にもため息をつきそうな呆れたような顔をする。  くっそー……  なんだよその、全部わかってますみたいな顔。    マジで腹たつ……!  ……まぁ、いいさ  お前がそうゆうんなら、俺だってマジでいかせてもらう。  今まではイヅルのファンなんだし……って手ぇださないようにしてたけど、もう遠慮なんてしてやるもんか。  逃した魚の大きさにあとで後悔しやがれ!! ◇ 「雪ちゃんおはよ」 「あ、おはよう。日向くん……今日はイヅルくんは?」  次の日、俺は早速行動にでた。  雪ちゃんの姿を見るなり駆け寄り声をかける。  だけど雪ちゃんの口からでたのはそんな言葉だったから、わかってはいたけれど、気合をいれたのに少々がっくりしてしまう。 「あいつは朝練だよ」 「あ、そっかぁ……バレー部大変だね。放課後とか応援にいこうかなぁ」 「いやいやいや、練習邪魔すると怒るからさ、見にいかないほうがいいよ?」 「でもそしたら、雪、クラスも違うし、あんまりイヅルくんに会えるところがないから……」  雪ちゃんが俺を上目遣いで見つめてくる。  うわぁ……可愛い。ほんとにタイプ。  こんな顔でお願いされたら、どんな頼みでも聞いて上げたくなってしまう。  ーーでも、ここで練習風景なんて見せちゃだめだ。  だって、今でさえイヅルのファンなのに、あんなの見たらさらにファンになっちゃうじゃん?  俺は必死でフォローをいれる。 「そんなコトないよ。うちのクラスくればいつだってイヅルいるじゃん」 「でも雪、このクラスに友達っていないし……」  頼るように俺を見る雪ちゃんの瞳はくりくりした大きな瞳でキラキラ輝いている。  俺は雪ちゃんの頭にぽんと軽く手をおく。 「何いってんだよ、雪ちゃん。俺たちって友達じゃないの?」 「日向くん」 「なんか困ったことあったら俺に相談しなよ。なんでも聞くからさ」 「ありがと……嬉しい」  そう言うと、雪ちゃんはぽっと頬を赤く染めてて……  俺は一通り話終わったあと、走り去る雪ちゃんの後ろ姿をぼーっと見つめていた。  かわいくて、女らしくて、おしとやかで……やっぱ雪ちゃん最高じゃん!  なんて。  俺は夢見ごこちな気分で、彼女がいなくなったあともそこで感慨に耽っていた。  ……それが後に後悔と変わることも知らずに

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