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彼と彼の事情③

 雪ちゃんと友達宣言をしてからというもの、俺と雪ちゃんの距離はぐっと近寄っていた。  雪ちゃんは毎日のようにうちのクラスにきては、イヅルと会うために俺をよぶ。  学校以外でも電話やメールで雪ちゃんからの相談をうける事も多々あった。 「イヅルくん、雪のコト、嫌いなのかな?」 「イヅルくん、今日すごくかっこよかった!」 「イヅルくんって何が好きなのかな?」  ……すべてイヅルに関する相談だったけど。  まぁでも……それでもいいんだ。  しばらくすればイヅルへの熱も冷めるだろう。  そうしたらきっと俺を意識してくれるんじゃないか……  そんな考えで、俺は今の関係を続けていた。  なぜなら 「いつもありがとう日向くん」 「雪ちゃん」  潤んだ上目使いに鼓動が高鳴る。 ……彼女のコトを本気で好きになり初めていたから ◇ 「ヒナ、あの女また来たん?」  昼休み、呆れたようにイヅルがいった。  俺はパンをほうばりながら、少々ムッとしてイヅルのコーヒーを横取りする。 「何、イヅル。関係ないって言ってたのにあの女よばわりする?……コレ没収な。」 「あー……えーと雪ちゃん?あの……あー……あの子、やっぱりあの子がそんなにいいのか?あの子のこと好きなの?」  イヅルの言葉に、俺はパンを食べる手をピタリととめる。 「……イヅル。やっぱりあれだろ?今さらながらに雪ちゃんをどーでもいーなんていった事、後悔してんだろ?」 「いや……そーじゃなくて……」  なぜだかいいにくそうにキョロキョロするイヅル。  どうしたんだよ。はっきり言えばいいのに。  もしかして、やっぱりイヅルも雪ちゃんの事……  そう思った俺は慌てて、イヅルに先手を打つことにした。 「まー隠すなって!やっぱかわいいだろ雪ちゃん! あ、でも今更、返せは納得しないからな。俺、今、ちょっとマジなんだ」 「え、あの子の事?……本気ってこと?」 「ああ。だってすげぇかわいいんだよ雪ちゃん。それに、まだお前に気があるみたいだけど、この調子なら……俺の事、意識してくれんのも時間の問題じゃないかなって」 「ふーん。そう」  そのとき昼休み終了のチャイムが鳴って。もう少し話したかったけれど、俺は名残惜しげに自分の席に戻った。  イヅルもなんかいいたそうな顔をしていたからそれも気になっていたけれど、結局聞けないままになってしまった。  俺はバカだった。  雪ちゃんと友達……いやそれ以上の関係になれたと舞い上がってたんだ。 ーーだから 興奮気味の明るい俺とは別に、暗く……なんだか考えごとをしているようなイヅルの返事を、この時は嫉妬してるんだとしか思わなかったんだ。 ◇ 『日向くん』 「なに?」 『ごめんね……!やっぱいけなくなっちゃった』 「え?」  日曜日。  俺は雪ちゃんとデートの約束をしていた。最高な気分で映画館前で待つ俺にかかってきた一本の最悪な電話。 「なに?どうしたの?なんかあった?」 『あのね……雪がうちをでるときにパパに見つかっちゃって……なんか様子がおかしいって怪しんでて、うちからだしてくれないの』  小さな弱々しい声で話す雪ちゃん。  普通考えたら、今時の女子高生がそんなわけあるかって感じだけど、雪ちゃんならなぜか納得。  ……にしてもマジなのか。  気合入れてきたのに……!  俺は内心がっくりしつつも愛想のいい返事をする。 「わかった。仕方ないね」 『ごめんね、日向くん』 「いいよ。じゃ、また違う日にね」  なんていって電話を切る。そうして、ため息を一つ。  雪ちゃんにドタキャンされんのは今日が初めてじゃあない。  イヅルの事で相談にのってあげる代わりに、俺はことごとく雪ちゃんをデートに誘っていた。 ……まぁ、10戦8敗くらいの確率でドタキャンされてたんだけど。

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