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彼と彼の事情④
それでも俺は彼女が好きだった。
なかなか手に入らない獲物にさらに感情はヒートアップするように、どんどん彼女にハマっていったんだ。
あの子の本心など知らずに……
◇
「……なぁヒナ。やっぱ、あの子はやめとけよ」
告白宣言をしてから数週間たったころ、突然イヅルがいった。
「は?今更?確かに雪ちゃんはお前のファンだったし……て、ゆーか、まぁ……今もそーだけど……。でも、お前には関係ないんだろ?最初にいったじゃねぇかよ」
「いや、そうゆう事じゃなくて……」
言い掛けたイヅルは途中で言葉を切って、そうして、なぜだかいいにくそうに口ごもる。
一体なんなんだ、この歯切れの悪い会話は。言いたいことがあるならさっさと言えよ。
……イライラする。
「はっきり言えよ!」
「じゃあ、言うけど……あの子はお前が思ってるような子じゃねぇと思う」
廊下で壁に寄り掛かるイヅルがいつもの如く、空を見上げる。呟かれた一言に、俺の感情は抑えが効かなくなった。
「は?なんでお前にそんな事いわれなきゃなんないワケ?お前が雪ちゃんの何を知ってんだよ」
「……お前の事を好きそうには見えない」
……なんとなく、自分でも気付いていたんだ。
でも、気付きたくなかった。
だから、イヅルの言葉に苛立った。
イヅルの言葉がまんざらでもなくて
でも認めたくなくて
雪ちゃんはそんなんじゃない
………信じたくて
「……お前が雪ちゃんの何を知っているって言うんだよ」
小さく、もう一度呟いた声に、すぐ返ったきた言葉。
「確かになんも知らないね。でも……少なくともお前よりは、知ってる」
いつものように廊下の壁に寄り掛かりながら、いつになくイヅルは真剣な顔でそう言った。
……なんだよそれ
友達なら……親友なら……
応援してくれたっていいだろ?
「なんだよイヅル。俺より知ってるって……?お前さ、なんなの一体……イヅルなら協力してくれると思ったね。もういい。お前になんか相談しねぇから」
「…………ヒナ」
一方的にまくし立てて、ゆっくり寄り掛かっていた壁から背をはなす。そうして何を言ったらいいかわからないとでもいうように、困った顔をするイヅルを置いて先に教室へ入った。
視界の片隅で、イヅルがゆっくりポケットに手をいれ中庭の方へ向かう姿が見えた。
『お前の事を好きそうには見えない』
……イヅルに言われた言葉は、ずっと頭の中に響いていた
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