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彼と彼の事情⑤

✳ 「……で、こう言うんだぜ?」 「うおー!やっぱかわいいなぁ雪ちゃんは。最高だな!」 「おぅ!サイコーにかわいいっ!」 「そうかそうか……ところで日向。お前、なんでココにいるんだ?イヅルハルカはどうした??」 「ん?」  屋上に寝そべり、俺を見上げる南とその隣によいしょと腰掛ける俺。 「……さあ。教室じゃね?」 「?……お前ら喧嘩でもしたん?」 「しらねー」 「知らねぇって……」   どうでもいいとでも言うように呟き、南の隣にごろんと寝そべった俺を、南は不思議そうに見つめている。 「最近、イヅルハルカと一緒にいないよなー」 「そうだっけ?」 「お前ら、なんかあった?気になんじゃん!教えろよ」  心配そう……というよりは興味本位で聞いてくる南。  ……そういえばコイツ、イヅルファンだったな。  南の教えてくれと言わんばかりの視線に、仕方なく手をつき起き上がり、フェンスの先を見ながら、かったるいながらも口を開く。 「別に……あいつが雪ちゃんを悪く言うから」 「ふーん……」  突然ニヤつく南。 「……なんだよ」 「いやー……日向くんも大人になったなぁと思って」 「はぁ?」 「一人の女の事で親友と喧嘩なんてさ……なんか青春ってカンジ?」  立ち上がり怪訝な顔で南を見る俺とは対照的に、南は楽しそうに笑っている。  なんだよ、人ごとだと思って……  そのまま出口へと向かうと、背後から聞こえる声。 「なぁ、日向ぁ。イヅルハルカがそこまで言うならさ、なんか理由があんじゃねぇの?……あいつも雪ちゃんを好きだったり、とか」  南が珍しく真面目口調で放った言葉。  その時、ぴゅーと強い風が吹いて。  沈黙のまま、自然と扉がバタンとしまった。 『あいつも雪ちゃんのこと好きなんじゃねぇの?』  ……やっぱりそうなのか?  屋上の入口の扉前で、俺は立ち止まったまま考える。  今までにもそう思われる節はけっこうあった。  けれど……考えないようにしていた。 『ヒナのことを好きとは思えない』  ……俺のことを心配するフリして実は自分のタメ? 『勝手にすれば?』  ……あれはなんだったんだ?  ぜったい自分のもんになるって言う自信?  天才高校生なんて騒がれてても、普通の男だもんな。  俺は入口のドアにもたれかかり、ため息をつく。すでにイヅルとは1週間くらい、口も聞いてなかった。  ……ずっとこのままなんだろうか。  なんだか心の中がからっぽになったような気分だった。  わからないけど  苦しいような  寂しい……ような  雪ちゃんになかなか会えないからか、それともイヅルと話せないからか……理由はわからなかった。  他の奴らと一緒にいても、南と毎日馬鹿話しても心の曇りはとれなかったんだ。 ✳  そんなある日の放課後。  信じられない情報が耳に入った。 『イヅルが1組の高宮と付き合ってるらしい』

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