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彼と彼の事情⑥

 聞いた瞬間、目の前が真っ暗になるってのはこうゆうことなんだなと思った。  ……わからなかった  言葉の意味が。  ーー否  わかりたくなかった。  イヅルガ ユキチャント ツキアッテル……?  もやもやとした渦が心の中にまとわり付く。  ズシンっと重い鎖でもまかれたかのように、ただ胸が苦しかった。  なんなんだこの感情は……  怒り、悲しみ、憎しみ、そのどれとも違う。  なかなか俺のことを好きになってくれない雪ちゃんへの恨み……でもない。  雪ちゃんを取られた悲しみ……でもない。  じゃあ、コレは、なんだ……?  嫉妬?雪ちゃんをとったイヅルへの?  ーーいや、ちがう  雪ちゃんはかわいい。  本気で好きだと思う。  でも……それだけだった。  イヅルから振り向かせる。自分の彼女にしたい。  必死になって、夢中になってた。  それは事実だ。  けれど……  彼女がいなくても俺は変わらず過ごすだろう。  彼女じゃなくても俺は笑っていられるだろう。  俺はしらずしらずの間に、イヅルお気に入りの中庭に繋がる廊下にきていた。  あいつと同じように、壁によりかかり、空を見上げる。  この一週間、悩んだ答えがでそうだった。 『彼女』を一人の人として思ったとき、俺にとって大切なのは、必要なのは……イヅルの方だと気付いていたんだ。  考えてみたら答えは簡単だった。    一時の恋より、一生の友  まだたった数ヶ月の付き合いだけれど、イヅルと俺は、そんな簡単に崩れるような崩せるような……  そんな関係とは思いたくなかったんだ。 「はぁーーー………」  見上げた空はめちゃくちゃ青かった。  今日は晴天だ。  ゆっくり流れる雲が苛立った心を晴らしてくれるようで、そのままそっと瞳を閉じる。  あいつもこうして周囲の期待から気持ちを落ち着かせていたんだろうか。  ……なぜか、イヅルと最初に会った日を思い出した。  2人で中庭で飲んだ炭酸は、アルコールが入っていたわけでもないのに、気持ちを落ち着かせてくれる魔法の薬のようで  コイツならわかりあえる、信用できる。  俺は会ったばかりのあいつに、そんな感情を抱いたんだ。  ーーそうだ。  何か大切なことを忘れてる気がする。  流れる雲をぼんやり目で追っていると、広い体育館で、一人練習を続けるイヅルを思い出した。 『今は付き合うとかいいや。余裕ないし』  ーーそうだ  あいつは誰よりも努力家でバレーのことばかりの奴なんだ。 『おまえまでそんな事いうなよ』  コートの片隅で寂し気にいった言葉を思い出す。  ーーそうだよ  あいつは俺を信頼してくれてんだ。 『ヒナ、飯いこーぜ』  イヅルの嫌味のない笑顔が空にうつる。  ……俺たちは親友じゃないのか?  俺があいつを信じなくてどうする!!  俺は壁から身を離し、今だ教室に残っていたはずのイヅルを探して走り出す。    イヅルは俺を裏切って、隠れて付き合うなんてことをするような……  そんなヤツじゃない。

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