20 / 120
彼と彼の事情⑦
教室へついた俺は辺りをキョロキョロ見渡したが、イヅルの姿はない。一番近くにいた渡辺にイヅルの居所を訪ねる。
「ああ。イヅルくんなら、1組の高宮さんと一緒に体育館の方むかったよ。いーよねー……やっぱほんとにあの2人つきあって……」
「渡辺、サンキュー!」
言葉を途中で遮って、体育館の方へ走り出す。雪ちゃんも一緒ってなら、なおさら好都合だ。
2人で俺に内緒で付き合いはじめるなんて、イヅルはそんな卑怯なこと絶対にしないはずだ。
そうだ、できるわけがない。これは何かの間違いなんだ。そうに決まってる!
頭のなかで思考が散乱する。
とにかく早く、本当のことを聞きたい。
まっすぐ体育館に向かうと館内は部活に勤しむ奴らでいっぱいで。ボールと一緒に飛び交う声。
その中に南の姿をみつけた。
「南」
「んぁ?日向?なんだ、どーした??」
体育館の片隅で部員と談笑しながらボールを拾っていた南が、俺に気付いて駆け寄ってくる。
「なぁ!イヅルは?」
「あー……今日は来てないぜ?」
少し気の毒そうな顔をして俺の顔色を伺う南。
大方、イヅルと雪ちゃんの話を聞いて、俺に気を使っているんだろう。
なんだかんだいって、おちゃらけていても、やっぱり南はいいやつだ。
「南、ありがとな。雪ちゃんの事なら知ってるから大丈夫。な、アイツらどこにいるか知らない?」
「……」
気まずそうな顔をして無言で南が指さしたのは、体育館裏。今は使用されてない部室がある場所だ。
「サンキュー」
すべてをはっきりさせるべく俺は足早にそこに向かって走り出す。
そんな俺の後ろからかかる声。
「日向!……元気出せよっ!」
✳
体育館裏への部室にはすぐに着いた。でも俺はドアノブに手をかけたまま動けなかった。
この扉を開けてしまったらそこにあるのはなんだろう?
先に見えない結果が怖くて、ノブをまわす手に力が入らない。固まったまま動けない。
しーんと静まり返った周囲からは物音一つしなくて、別に聞きたいわけじゃないのに、否応なしにも中の声が聞こえてきた。
『ーー……っだから、雪……、困ってて……っーー』
……?
……雪ちゃん……泣いてる?
イヅル……何……なんて言ったんだ?
中の声が気になる。
『ーー日向君が……だから……でも雪は…ーー』
とぎれとぎれ聞こえる言葉の中に俺の名前が聞こえる。
……え……? 何?……俺?
俺はゆっくり部室のドアをまわす。それをそっと引いたとき、信じられない言葉が耳をついた。
「日向くんが……無理矢理……っ」
「高宮……」
目に入ったのはイヅルに抱きつく雪ちゃんの姿。
ともだちにシェアしよう!