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彼と彼の事情⑦

 教室へついた俺は辺りをキョロキョロ見渡したが、イヅルの姿はない。一番近くにいた渡辺にイヅルの居所を訪ねる。 「ああ。イヅルくんなら、1組の高宮さんと一緒に体育館の方むかったよ。いーよねー……やっぱほんとにあの2人つきあって……」 「渡辺、サンキュー!」  言葉を途中で遮って、体育館の方へ走り出す。雪ちゃんも一緒ってなら、なおさら好都合だ。  2人で俺に内緒で付き合いはじめるなんて、イヅルはそんな卑怯なこと絶対にしないはずだ。  そうだ、できるわけがない。これは何かの間違いなんだ。そうに決まってる!    頭のなかで思考が散乱する。  とにかく早く、本当のことを聞きたい。  まっすぐ体育館に向かうと館内は部活に勤しむ奴らでいっぱいで。ボールと一緒に飛び交う声。  その中に南の姿をみつけた。 「南」 「んぁ?日向?なんだ、どーした??」  体育館の片隅で部員と談笑しながらボールを拾っていた南が、俺に気付いて駆け寄ってくる。 「なぁ!イヅルは?」 「あー……今日は来てないぜ?」  少し気の毒そうな顔をして俺の顔色を伺う南。  大方、イヅルと雪ちゃんの話を聞いて、俺に気を使っているんだろう。  なんだかんだいって、おちゃらけていても、やっぱり南はいいやつだ。   「南、ありがとな。雪ちゃんの事なら知ってるから大丈夫。な、アイツらどこにいるか知らない?」 「……」  気まずそうな顔をして無言で南が指さしたのは、体育館裏。今は使用されてない部室がある場所だ。 「サンキュー」  すべてをはっきりさせるべく俺は足早にそこに向かって走り出す。  そんな俺の後ろからかかる声。 「日向!……元気出せよっ!」 ✳  体育館裏への部室にはすぐに着いた。でも俺はドアノブに手をかけたまま動けなかった。  この扉を開けてしまったらそこにあるのはなんだろう?  先に見えない結果が怖くて、ノブをまわす手に力が入らない。固まったまま動けない。  しーんと静まり返った周囲からは物音一つしなくて、別に聞きたいわけじゃないのに、否応なしにも中の声が聞こえてきた。 『ーー……っだから、雪……、困ってて……っーー』  ……?  ……雪ちゃん……泣いてる?  イヅル……何……なんて言ったんだ?  中の声が気になる。 『ーー日向君が……だから……でも雪は…ーー』  とぎれとぎれ聞こえる言葉の中に俺の名前が聞こえる。 ……え……? 何?……俺?  俺はゆっくり部室のドアをまわす。それをそっと引いたとき、信じられない言葉が耳をついた。 「日向くんが……無理矢理……っ」 「高宮……」  目に入ったのはイヅルに抱きつく雪ちゃんの姿。

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