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変化③

 ーーイヅルだ 「すごいーっ!イヅルくん頑張れー!」 「マジかっこいーっ!!」  まだらに別れて座り込むいくつかの女子グループ。その中の一つが立ち上がり声援をおくる。  そんな体育の授業とはらしからぬ応援を受けながら、イヅルはそのままのスピードでゴール。 「居鶴!なかなかのタイムだぞ!お前、陸上部もいけるな。ちょっと顔だしてみないか」 「……無理っすよ……っ」  はぁはぁと息をきらすイヅルに、興奮気味にタイムウォッチを掲げながら近づく陸上部顧問の体育教師。  ……こんなのいつもの光景だ  なんでもできて女子にもモテて。普通ならそれだけで男どもから批難の嵐であるだろうに、イヅルはちがう。 「イヅルー!お前、マジなんでもできんのなー」 「ハハッ!んなことねぇけど……ま、実力ってヤツ?」 「ムカつくなぁっ」  いたずらっぽく笑うイヅルの尻に笑いながら蹴りをいれるクラスメート。  愛される術を知っているかのように、みんなに好かれて、尊敬の眼差しを受けて。  ーーアイツはみんなのヒーローなんだ  俺はいつのまにか、イヅルの姿をぼーっと見つめていた。 「……日向、日向っ」 「……あ?なんだよ?」  気付けば俺の肩を強く揺する南。 「なんだよ、じゃねーよ。お前、なんでそんな怖ぇ顔してんだよ?」 「は?」  俺は自分の顔に手を添える。  ……そんな顔した覚えないけどな  ただ、イヅルの事を考え……  って……ーーやべ  また無意識にイヅルの事、考えてた。 「……俺、そんな顔してた?」 「あー!なんか睨んでるって感じだったぜ?」  南の言葉に疑問。  イヅルの事を考えて  あいつがみんなのヒーローだってあらためて思ってただけなのに……  俺は何を睨んでたんだ?  ………あれ。  思い出したら、なんか今もムカムカする。  なんだ、これ……  俺……何に腹たってんだ? 「あーっ!わけわかんねー!!」 「わっ!?なんだよ日向。お前、最近変だぜ?今日だってなると一枚で怒るし……」 「なるとは別だろ?」  南と違う声に顔をあげると、いつのまにかイヅルが座り込む俺らの真ん前にたっていた。 「あらー聞いてよ、奥さん!このコ変なのよ?」 「この子が変なのはいつものことじゃない」  南の女言葉に合わせて馬鹿らしい会話をしながら俺の隣に腰をおろす。 「……あほか」  ぼそっと呟きながら俺は南の方へと少し寄る。  イヅルは不思議そうに俺をちらりとみた。 「……たしかにヒナ、最近変だよな。妙におとなしいっつーか……悩みでもあんの?」 「あ、そうなのか日向?」  真ん中にいる俺を両側から伺ってくる南とイヅル。 「……そ、んなんじゃねぇよ。なんでもねーって。別にかわんねぇよ?いつもと」  俺は平然を装いながら南をみてはなす。  ……イヅルの方は向けない  向きたくないんだ。  だって、さ……  横目でちらりと覗くと、すぐ、隣にある顔。  気づかれる前に慌ててパッと視線を戻す。  距離…………近くね? 「んな事ねぇな。これは。ぜってぇ悩みがあるとみた!しかも日向、お前……」 「…………なんだよ」  隣にイヅルがいるだけで心臓がバクバクすんだよ。  たのむからそれ以上、俺の方に近寄るな。  あんまり、そばにくるなよ……  なぜか自然と赤くなっていた顔を南が指さす。 「恋、してンじゃねぇ!?クラスのコに!」 「は……?」  開いた口がふさがらないとはこのことだ。  ……何いってんだ南のヤツ 「今日だってさー日向、上の空でグラウンドにいる女子をじっと見てたし」 「マジで?ヒナ、そーなの??」  興味ありそうにきいてくるイヅルと仕方なく目を合わせ、心の中では軽く舌打ち。  ……ソレは女子を見てたんじゃなくて  その中心にいたお前を見てたんだ。

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