27 / 120

変化④

 ーーなんて、誰がいえるかバカ。 「ンなワケねーじゃん……」  イヅルの方を向いたものの、どうしても直視できず、俺は三角座りで膝を抱えながら俯いた。 「?南、やっぱヒナ変だぜ?具合いでもワリィんじゃねぇ?」  ……どうにもならない  自分の感情がコントロールできない。  頭が混乱する。呼吸が乱れる。  ……なんなんだよ。落ち着けよ。  下をむいて息を整えているとポンと頭におかれた大きな手。 「!」 「あ。やっぱ熱い。ヒナ、熱あんじゃねーの?」  それがイヅルの手だと気付いた時には、そこから全身に熱がかけめぐってきた。  熱いのはお前のせいだっつーの!!  そんな俺の挙動不審な態度にイヅルは首を傾げて手をはなす。そうして南の近くに移動して話しはじめた。  俺は南と話すイヅルをじっと見つめていた。  ……どうしてくれんだよ、イヅル  なぁ、こんなの変だろ?  ドキドキして苦しいんだ。  今までも何度か感じたコトのある胸の痛み。  うっすらと、俺は今、自分の中に渦巻く感情がなんなのか気付き始めていた。  なんで俺……  お前の事、意識してんだよ…… ✳  かったるい体育が終わって、午後最後の授業を受けながら俺は頭をフル回転させていた。  ……3つ前にある大きな背中  頭一つとびでたソイツをみつめながら。  昼間感じた気持ち、それは明らかに雪ちゃんに感じた感情と似ていた。  いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。  そう思うほどの不自然な変化が、すでに俺自身を支配していた。  イヅルの表情に  イヅルの態度に  イヅルの言葉に  無意識に心が、反応を示す。  なんなんだよ……  一体どうしたんだよ?  イヅル。お前、俺に何したんだよ?  この気持ちはなんなんだよ?  視線を前に向けると、机につっぷす背中が見える。それをみてなぜか笑顔になってしまう自分に首を振り、ため息をつく。  ……ほんとは  ほんとはわかってる  なんとなく、気付いたんだ。  これはなんなのか。  俺がお前にどんな感情を抱いてるのか  ……だけど。  ひそひそ聞こえる声。  隣の女子がイヅルの方をみて前の女子と会話している。 『イヅルくん寝てるよー!!』 『あとでノート見せてあげればいいじゃん!』 『きゃー』  ……やっぱり、おかしいんだって。  この感情が事実であっちゃいけないんだよ。  これは俺の勘違い。  ちょっとした間違いなんだ。  ーーだって俺は女子じゃないんだし  ガバリと机につっぷし、わしわしと頭をかく。  ……イヅルは誰からみてもかっこよくて、男からみても憧れる存在だ。  ゆっくりと顔をあげてみる。  こうして後ろからみているとたくさんの視線があいつに向いていることがわかる。  ……そうだ  これは憧れの延長なんだ。  みんなが羨むアイツと、ずっと一緒に行動して、会話しておかしくならない方が変なんだよ。  当たり前の感情の変化なんだ。  俺はそのままイヅルの背中をじっと見つめる。  ーーだったら  このまま一緒にいていいのか??  この気持ちが憧れだといいきれなくなる前に、アイツから遠ざかった方がいいんじゃないか……?  頭の中を渦巻く葛藤に、胸の奥はもやもやする。  ……もう、自分がどうしたいのかわからない  どうしたらいいのかわからない  でも、確実に俺の感情を大きく支配していた事がある。  ……もし、この気持ちが憧れだけじゃなかったら  アイツにばれてしまったら……  もう親友の関係には戻れないんじゃないかという、戸惑いと、不安。  ーー俺は  それだけが怖かったんだ。

ともだちにシェアしよう!