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カクシン①
「ヒナー!Lバーガーいこーぜ」
放課後、今まで授業が早く終わってイヅルの部活時間までに余裕がある日は、決まって二人でつるんでいた。
けれど
「ワリィ……俺、今日早く帰んなきゃいけねぇや」
あの日以来、俺はイヅルからの誘いを断っていた。
もともとイヅルはバレー部の練習で忙しくて、空いている時間なんてあまりない。
だから珍しく空いている日の誘いを断ると、全くといっていいほどイヅルと授業以外で関わる時間はなかった。
「またかよー?なんか最近忙しいな、お前。じゃー南でも誘うか」
疑いもせず、イヅルが笑いながら手をふってくる。
……別に忙しくなんてねぇよ
顔には笑顔をつくり手を振り返す。
遠ざかるイヅルの後ろ姿を見ながら、ほっと溜息をつく。
俺、うまく喋れたよな?変な声してなかったかな?
バクバクと頭にまで心臓の音が響いてくる。
ーーこの鼓動があいつに聞こえてませんように!
イヅルと話すたびに感じる鼓動の高まりは今も続いていた。
これがあるかぎり、俺は否定できない。
俺がイヅルに抱いている感情……それが、親友の枠にあてはまらないモノだって事を……
鞄を持って、一人教室をあとにする。
……この感情がなくなるまで
俺はイヅルとの関係に距離をおこうと心に決めていた。
◇
「最近付き合い悪くね?」
そんな事が何度もつづいたある日の休み時間。
3つ前の席から近づいてきたイヅル。
「別に。そんな事ねぇよ」
「そうか?なんか何誘っても用事あるみてぇだし、休み時間になるとどっかいっちまうし。昼ん時だって、ヒナ全然喋らねぇじゃん」
「ンな事……」
でかい体を丸めて、不思議そうに俺の顔を下からのぞいてくる。
俺は内心動揺している様を悟られないように平然を装いながら顔を向ける。
でも、視線だけはしっかり合わせられなくて、つい下を向き俯いた。
「? やっぱ、お前変だぜ?顔も赤ぇし……熱でもあんじゃ……」
「ーー触んなよ」
いつもと同じ様子で俺の額に手をおこうとしたイヅルに気付いて、咄嗟にでた大声。
「ヒナ……?」
「…………」
何が起きたかわからないというように、驚いたイヅルの顔。
……何やってんだよ
こんなの、どうしたって不自然だ。おかしいだろ。
わかっている。でも、どうにもできない。いつもなら得意なのに、イヅルが相手だと上手く繕えないんだ。そんな余裕なんかない。
困惑する俺の前でイヅルはバツが悪そうに、無言で頭を掻いている。
「……ヒナ」
「ごめん」
キーンコーン……
イヅルが口を開きかけたと同時に響くチャイムの音。
釈然としない余韻を残して、気まずい雰囲気のまま、イヅルは席へともどっていった。
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