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カクシン③
「…………え?」
何いってんだ?って、困惑した声が聞こえる。イヅルがどんな顔をしているか確かめたい。
でも、俺は顔をあげる事ができないんだ。
なぜなら、顔から火が出てるじゃねぇかってくらい、すげー赤くなってるだろうから。
「……か、勘違いすんなよ!かもしれないってだけで、好きとかって決まったわけじゃ……」
「え、いや、ちょっと待って……えーと……誰が誰を……?」
再度聞き直してくるイヅル。
……こっちだってはっきり答えたくないんだよ
そのぐらいわかんねぇのかよ。
告白されんのに慣れてるくせに、なんでこういう気はまわんないんだよ。
察してくれよ。
意を決してその言葉を口にする。
「……俺が……オマエを、だよ……」
「……え……」
「…………」
「…………」
狭い部室の中、堪え難い沈黙が続く。
……なんだよ
なんなんだよ
なんか言えよ……っ
沈黙の時間が長くなるにつれ、言わなければよかった……なんて、後悔がどんどん押し寄せてきて、俺は頭を抱えて小さくなった。
ただの憧れだ……そう思ってたのに。
それならすぐに終わらせられる。
告白して、無理っていわれて、ジョーダンだって笑って……
そしてすぐに次へと切り替えて、もとの関係にもどるんだ。
ーーそう、思ってたのに……
『ごめん。無理だ』
予想している言葉。
その答えをイヅルの口から聞くことがこんなに怖いだなんて……
「…………」
俺は顔をあげイヅルをみつめた。
いつになく真剣な顔のイヅルが、何かを考えてるように一点をみつめていた。
「…………」
長い沈黙。
もう、耐えきれない。
答えを待つ不安と緊張に押し潰されそうになる。
ーーもう、いいや
険しい顔をしたイヅルの顔を見て、思う。
こんなに困ってるじゃないか。
イヅルがかわいそうだ。
俺は小さくため息をつく。
始めからわかってんじゃないか
無理だって
わかってた答えをもらいにきただけだから
ゆっくり立ち上がり、顔をあげてイヅルと目を合わせた。
「ジョーダンだよ!ジョーダンっ」
「……」
変わらない、イヅルの顔。
「いくらお前でもさ、男にそんな事言われた事なんてねぇだろうなーってからかったんだよ!……ただ、それだけだ!」
「……」
明るく笑う俺に、未だ真剣な表情のイヅル。
「ジョーダンだっつってんだろ?」
「……」
何を言ってもイヅルは無言で俺をじっと見つめていて。
……必死になって弁解している自分がなんだか哀れになった。
「……笑えよ」
「……笑えねぇよ」
俯き、呟いた一言に、ようやく帰ってきた言葉。
ポツリとイヅルの口から呟かれたその言葉に、ぱっと顔をあげる。
困ったようなイヅルの顔が視界にうつった。
「だってお前、泣いてんじゃん……」
………え
イヅルの口からでた言葉に思わず手を顔に当てる。頬にあたる冷たい感触。
「……笑えねぇよ……」
もういちどイヅルがぼそっと呟いた。
……俺はなんてバカだ
傷つかないように、気付かれないように
ただ、今の気持ちを伝えるだけだったはずなのに……
俯いたまま、顔があげられない。
もう、おしまいだ
ごまかしがきかない。
頬に伝わる涙……それがすべてを明らかにしていた。
俺すら認めまいとしていた事実。
それがアイツにもバレたんだ。
まぎれもない核心がつかれた。
もう、認めざるを得なくなった。
もう、隠しきれなかった。
ーー俺が
本気でイヅルを好きだという真実を……
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