30 / 120

カクシン③

「…………え?」  何いってんだ?って、困惑した声が聞こえる。イヅルがどんな顔をしているか確かめたい。  でも、俺は顔をあげる事ができないんだ。  なぜなら、顔から火が出てるじゃねぇかってくらい、すげー赤くなってるだろうから。 「……か、勘違いすんなよ!かもしれないってだけで、好きとかって決まったわけじゃ……」 「え、いや、ちょっと待って……えーと……誰が誰を……?」  再度聞き直してくるイヅル。  ……こっちだってはっきり答えたくないんだよ  そのぐらいわかんねぇのかよ。  告白されんのに慣れてるくせに、なんでこういう気はまわんないんだよ。  察してくれよ。  意を決してその言葉を口にする。 「……俺が……オマエを、だよ……」 「……え……」 「…………」 「…………」  狭い部室の中、堪え難い沈黙が続く。  ……なんだよ  なんなんだよ  なんか言えよ……っ  沈黙の時間が長くなるにつれ、言わなければよかった……なんて、後悔がどんどん押し寄せてきて、俺は頭を抱えて小さくなった。  ただの憧れだ……そう思ってたのに。  それならすぐに終わらせられる。  告白して、無理っていわれて、ジョーダンだって笑って……  そしてすぐに次へと切り替えて、もとの関係にもどるんだ。  ーーそう、思ってたのに…… 『ごめん。無理だ』  予想している言葉。  その答えをイヅルの口から聞くことがこんなに怖いだなんて…… 「…………」  俺は顔をあげイヅルをみつめた。  いつになく真剣な顔のイヅルが、何かを考えてるように一点をみつめていた。 「…………」  長い沈黙。  もう、耐えきれない。    答えを待つ不安と緊張に押し潰されそうになる。  ーーもう、いいや  険しい顔をしたイヅルの顔を見て、思う。  こんなに困ってるじゃないか。  イヅルがかわいそうだ。  俺は小さくため息をつく。  始めからわかってんじゃないか  無理だって  わかってた答えをもらいにきただけだから  ゆっくり立ち上がり、顔をあげてイヅルと目を合わせた。 「ジョーダンだよ!ジョーダンっ」 「……」  変わらない、イヅルの顔。 「いくらお前でもさ、男にそんな事言われた事なんてねぇだろうなーってからかったんだよ!……ただ、それだけだ!」 「……」  明るく笑う俺に、未だ真剣な表情のイヅル。 「ジョーダンだっつってんだろ?」 「……」  何を言ってもイヅルは無言で俺をじっと見つめていて。   ……必死になって弁解している自分がなんだか哀れになった。 「……笑えよ」 「……笑えねぇよ」  俯き、呟いた一言に、ようやく帰ってきた言葉。  ポツリとイヅルの口から呟かれたその言葉に、ぱっと顔をあげる。  困ったようなイヅルの顔が視界にうつった。 「だってお前、泣いてんじゃん……」  ………え  イヅルの口からでた言葉に思わず手を顔に当てる。頬にあたる冷たい感触。 「……笑えねぇよ……」  もういちどイヅルがぼそっと呟いた。  ……俺はなんてバカだ  傷つかないように、気付かれないように  ただ、今の気持ちを伝えるだけだったはずなのに……  俯いたまま、顔があげられない。  もう、おしまいだ  ごまかしがきかない。  頬に伝わる涙……それがすべてを明らかにしていた。  俺すら認めまいとしていた事実。  それがアイツにもバレたんだ。  まぎれもない核心がつかれた。  もう、認めざるを得なくなった。  もう、隠しきれなかった。  ーー俺が  本気でイヅルを好きだという真実を……

ともだちにシェアしよう!