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告白の行方②
「俺はヒナのコト、好きだよ」
ボソリと、イヅルが呟いた言葉にぱっと顔をあげる。
なんだって?
聞き間違い……?
ここだけ時間が止まっているようだ。
開いた口が塞がらない。
眼の前にいるイヅルは至って真剣な顔をしている。こんな顔をしてるのを見るのはこれで3度目だ。
「え……なんて……」
掠れた声がでる。
「好きだよ。ヒナの事」
はっきりとイヅルが答える。
……夢を見てるのか?
イヅルは何を言ってるんだ?
頭が全然ついていかない。
「いや、だってオレ、男だし……」
咄嗟に口からでたのはそんな言葉で。
それをきいて、ぶはっとイヅルが笑う。
「んな事知ってるよ。お前だって、俺のことが好きなんだろ?俺だって男だし」
あははと明るく笑うイヅル。
なんだ、これ
なんなんだ……これは
「え……いや……ええ……っ?」
「まぁ、それがどーゆー『好き』かは……よくわかんねぇけど」
俺を真正面から見つめる真剣な顔は穏やかな笑みを浮かべている。
さっきからずっと周りの時間が止まっているようだった。
ここには何の音も聞こえない。
イヅル以外、何も見えない。
「それはどーゆー気持ちかって言われたらわかんねぇけど……でも、他のやつとヒナは違うんだ」
……イヅルのストレートな言葉が胸のど真ん中に響く。
「お前とは会ったときから、昔から知り合いみたいに感じてたんだ。親友だって思ってる。それがお前の言う好きって気持ちかははっきりしねぇけど……お前のこと気持ちワリィとかは感じねえよ」
そこで一旦言葉をきって、イヅルがまっすぐに俺を見つめ直した。
「あーそれにさ、もし、俺に彼女がいたとしても、きっと、お前の方を優先すると思うんだよな」
まさかイヅルの口からそんな言葉がでるなんて、まったく予想もしてなかった
「だからさ、俺はヒナとこれからも仲良くしたいって思ってるって話っつーか………あー!なんか、痒いわ、こうゆうの!」
「イヅル……」
自分でもびっくりするくらい情けない声がでる。
照れるように横を向いて頭をかくイヅルをみて、ようやく、俺の中で静かに時間が流れ出した。
……これはなんだ?
イヅルは照れながらもこちらを向き、優しい笑みを浮かべた。
……お前、そんなふうに
そのまま何も言わずに俺をじっと見つめている。
……そんなふうに思っててくれたんだ
じわじわと胸に沸き上がる温かい気持ち。
止まってた涙が流れ出す。
「……おい。ヒナ、泣くなよ」
「な、泣いてねぇよっ」
からかうように言われたイヅルの言葉にバッと涙を拭う。
未だにちょっと照れ臭そうな顔をしながらも、いつもと同じように笑いかけてくるやつを見て、俺もいつもの調子をとりもどす。
「いや、泣いてた」
「泣いてねぇよ!」
「ほんとか?」
「ウザ」
目を拭い、ぱっとたちあがってイヅルを見下ろす。
何か取り付いてたものが落ちたかのように、重苦しかった胸が軽くなった。ほっとした。
友達としての『好き』とかそんなコトよりなによりも、俺は、イヅルに嫌われてない、友達でいられるという事実に心から安心していたんだ。
イヅルの優しい顔をみていると止まってた涙がまたでてしまいそうで、俺はくるりとうしろを向いた。
「ヒナ?」
「……なぁ、イヅル」
「ん?」
心を落ち着けて、一言。
「俺たち、今まで通りに……戻れるか?」
「ったりめぇじゃん」
イヅルの言葉に吹っ切れた。
……もう、充分だった。
隠す必要なんてなかった。
「……お前の事が好きなんだよ」
「うん」
……可でも不可でもない
イヅルの答えがソコに、あった。
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