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間違い②

 南より遅れること数分後、イヅルとともに数人のバレー部員がやってきた。  中には俺の知らないヤツもいたけれど、南の一言でその場に馴染めた。 「日向はうちのクラスの応援団だからな!よろしく」 「よろしくってゆうか、今更だけどなー。イヅルと一緒で毎日あってるようなもんだし」  そういって移した視線の先には、イヅルもが楽しげに笑っている。  みんなが部屋に入ってしばらくした後、南が大きな声で仕切り始めた。 「よし!じゃー打ち上げといきますかっ」 「テスト終了祝いと地区予選突破祝い!」  おおーっと盛り上がる室内。 「んじゃ、かんぱーいっ」 「っつかれっしたーっ!」  どこから持ってきたやら、お菓子や缶ジュースが回される。そうして狭い部屋の中心、円陣を組むようにみんなで座り込んだ。  大きな声で、笑いだす話題の中心にはイヅルがいて、思わず俺はドアの向こうを気にしてしまう。  ……こいつら、ここを寮の部屋って忘れてない?  俺はイヅルにそっと近寄る。 「なあ、こんなにバカ騒ぎして大丈夫か?寮とかって、結構規則とか厳しいって言ってなかったっけ?」 「ああ、大丈夫。この棟はバレー部の1年しかいないから。先輩たちは隣の別棟だし、寮長はここにいるし」    奥の方で1人、イヅルの言葉にハーイと手をあげて笑っている。 「ならいいけど。てかお前……アルコール飲んでるわけでもないのに、なんで、そんな赤いんだ?」  そうなんだ。  なぜかイヅルの顔が赤い。表情もおかしい。まるで酒に酔っているかのようにニコニコしている。 「んー、多分、コレかな」 「これって……チョコじゃん」 「チョコだな」  アハハハと笑うイヅルはいつもにもまして上機嫌だ。  イヅルの持っていたチョコレートの箱をよくみてみると、数%のアルコールが入っている。  まさかこれで酔ってるのか? 「なあ、南。イヅルがおかしい」 「ああ、ほら、打ち上げったってさ、アルコールも飲めないじゃん?だからその代わりに、バレー部の打ち上げではアルコール入りのチョコレートで雰囲気だしてんだ。イヅルはさ、多分アルコール駄目な体質なんだろうな。前もほんの少しで、真っ赤になってたから」 「ええ!?だったら食べなきゃいいのに」 「いや、わかってないな日向。食べちゃいけないからこそ、食べたいんだよ」  意味のわからない事を言いながら、南が別のバレー部員に声をかけていく。  俺は小さく溜息をついて、イヅルに話しかける。 「おいイヅル……お前、そんなチョコで酔っ払ってんのか?」 「バーカ。酔ってなんかねぇし。まあ、ヒナも飲みなさいって」  上機嫌のイヅルは満面の笑みを浮かべて、俺にコーラの缶を傾けてくる。  その笑顔がなんだかあまりにかわいくみえて、俺はまるで魔法にでもかけられたかのように、すすめられるがままにコーラを飲み干した。  そうしたらそれにイヅルがまた笑って。  たったそれだけの事なのに、瞳が奪われる。拘束をされているかのように、体が固まる。  ただ、イヅルを見ているだけで幸せになれる。  それから俺たちはゲームをしたり、バカ話をしたりして。その間に1人、2人と帰っていき、気付いたら最後に一人南がのこってた。とゆうか、はしゃぎすぎて、ソファで寝ていた。子供か。     南をなんとか起こして部屋までおくる。  これで部屋にはチョコ数口で酔っ払ったイヅルとそんなイヅルが気になって仕方ない俺だけになった。  いや、別に仕組んだわけじゃない。必然的にこうなっただけなんだ。  俺は楽しそうに一人でテレビを見て笑うイヅルを後ろからチョップした。 「何見て笑ってんだよ」 「痛。暴力反対。ヒナちゃんはー」 「ヒナちゃんて……お前、あんなお菓子のチョコでマジで酔ってんのかよ」 「酔ってないよ」    やっぱり変だ。  急に笑ったり、真面目な顔したり。    さっきまでふざけて笑っていたのに、いきなり真面目な顔して振り向くから、不覚にもドキドキしてしまったじゃないか。

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