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すれ違い②

※   ああ、もう消えていなくなりたい……  朝まで全く眠れなかった。  目を瞑ると、すぐに頭の中にイヅルの顔が浮かんできて、どんどん近づいてくる。そのたびにバクバクと心臓が鳴り始めて、眠るどころではなかったから。  そうして、起き上がる度に考えてしまう。  イヅルは一体どうゆうつもりで俺にあんなことをしたんだろう。  気になるのはその後でイヅルが言っていた言葉だ。『試す』ってなんだ?  嬉しいやら、悲しいやら、イライラするやら、わけのわからない感情が渦巻いて、全く落ち着かない。  でも……普通に考えたら、好意があるからなんじゃないのか?そうじゃなければそんなことはしないだろう。ましてや、あのイヅルだ。    ……少しは期待してもいいのだろうか?  そんなことを考えていたら、イヅルから電話がかかってきて。開口一番で言われた言葉に、唖然とした。 『昨日はごめん』  ……なんだよ、ごめんて。  イヅルの顔は見えないのに、声だけでどんな表情をしているかわかる。困ったような……きっと、後悔と書いてあるような顔をしているんだろう。  一体、何に対してのごめんなんだ。  言われた瞬間、一気に夢から覚めたような気分だった。  もしかしたら少しでもイヅルも俺のことを思ってくれているのかもしれない、なんて。  ……なんてまぬけな勘違いだ。  そんなことを考えていた自分が情けなくて、恥ずかしすぎる。  イヅルが話していることをその後は全く記憶にない。ただ、謝られたことが辛くて。勘違いしてたことが恥ずかしくて。  すべてなかったことにしたかった。忘れたかった。  耳元で聞こえる距離はこんなに近いのに、すぐ隣にいるようなのに、俺たちの心の距離はとてつもなく遠く感じた。 「ごめん……」  そこから感じるのは苛立ちしかない。  うるさい。その後に続く言葉葉なんなんだよ。 『こんなつもりじゃなかった』? 『後悔してる』……?  だとしたらなにも言うなよ。  ……そんな言葉、聞きたくもない。 「……あんなことするつもりじゃなかった」  予想通りの言葉が続いて、俺の頭の中は怒りと悲しみでいっぱいになった。  ふざけんなよ……だったらどーゆーつもりだったんだよ、イヅル。  胸が痛い。  ……もう本当に泣きたい気分だ。 『でも俺は、男とか女とか関係なしで、俺はお前のことが…』  今更……ナニを言うつもりだよ、イヅル  好きだとでも言うつもりかよ?  言葉の続きを聞くのが……恐い。 『ヒナのことが、好きなんだ』    ……ふざけんなよ……!  俺は気づいたら何も言わずに通話を切っていた。カッと、頭に血が上って、訳のわからない怒りがフツフツと湧いてくる。  ……イヅルの口からでた言葉が、下手な慰めにしか聞こえなかったから。  悔しくて……  情けなくて……  これ以上、電話を続けることが耐えられなかった。  ーーそう  俺は気付いていなかったんだ。  イヅルの言葉が嘘ではなかった事とか、あいつの気持ちが変化してきていた事とか……  あいつ自身でさえ気付いていなかった事に俺が気付くわけがない。  俺はもう自分のコトで精一杯だったんだ。  期待して、これ以上傷つかないように、ツラくならないように。  期待を裏切られた時ほど悲しい時はないから。  ……完璧な自己防衛  なんて前向きじゃないんだ。今までの俺では考えられないくらいだ。こんなマイナス思考を南が知ったら、ひっくり返るんじゃないか。  ……でも。  もう、イヅルのことで苦しい思いをするのは嫌だった。  ただでさえ、普通じゃない恋だってわかってんのに、実は相手も自分の事が好きでした、なんて都合のいい展開を信じられるはずがなかった。  そこまで夢なんかみていない。  整理しきれない、言いようのない気持ちのまま、もう一度ベッドに横になり目を閉じた。  何度か耳元で携帯が振動したが、とても出る気にはなれなかった。  なんだかすごく、疲れていた。  ……重なり合おうと近づいた俺たちの思いは、心に大きなスレチガイを生みだしていた。

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