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親友①
早々と鳴き始めた蝉の声がうるさい。寿命を縮めてまで、何がよくてなくのかな。なんて、生命の不思議に窓の外をちらりとみつめて、机の中のプリントを整理する。
課題をすべて鞄につめこんでからゆっくりと席をたちあがった。
「日向ー!もう帰んのか?」
振り向けば、机に座った南。その席のすぐ後ろに女子と談笑するアイツの姿が嫌でも目に入ってくる。
「あーまたな」
そっけなく言葉を返して、さっさと教室からでようとすると、再び後ろからかかる声。
「ヒナ!……またな」
ちらりと振り返ると、こちらを見つめるイヅルと目が合う。それに無言で手をふり足早に教室からでていく。
……あの日からイヅルとはこんな感じ。
あえて俺から話しかけることはないし、話したくもなかった。まわりに気付かれないための必要最低限の会話。それでも南はなんか変だと気付いてるっぽいけど……
まぁ、ただの喧嘩くらいにしか思ってないだろう。
校門をでて軽く背伸びをする。
一学期最後の日。明日からは夏休みだ。
これでしばらくはこの微妙なバランスの関係に気を使わなくていいかと思うと少しほっとする。
別に、イヅルを嫌いになったとかじゃなかった。
ただ、どう接したらいいのか、どう会話したらいいのか、今は全くわからなかった。
へんに無理をして取り繕って、壊れた関係をさらにこじらせたくなかったんだ。
イヅルが好き
その気持ちになんら変わりはなかったから。
いっその事、あれから幻滅して、大嫌いにでもなれていたなら……そうだったらよかったのに。
今だって、目を瞑ればすぐそこにイヅルの顔があって、その顔が優しく微笑んでくるんだ。
こんなことなら、いっそ全部夢だったらいいのにとも思う。こんなにもどかしい、表面上の関係でしかなくなってしまうなら、あのとき、告白なんてしなければよかったのに。
すべて夢でなにもかもが今まで通りで、イヅルともとの関係に戻れたら……なんて。何度思ったか数知れない。
夕焼けを見つめてため息をついた。
ぼんやりと、いつもと違う大通りを歩いていると、ふと、耳に入る歌に足をとめる。
道端のストリートミュージシャン。アコギから奏でる曲は優しくてせつなげで、意味もなく俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
そうしてふと、目をつむるとやはり浮かんでくるのはあの日のイヅルの姿だった。
どうにもならない気持ちが少しでも落ち着くことを望んだのに。
そっと目を開けてみても、ギターを奏でる姿と優しいメロディはあのときのイヅルと重なって。
……ほんと重傷だ。
「何かおかしかった?」
どうしようもないな、と笑っていると、知らない声にハッと我にかえる。いつのまにか止まっていた音楽。目の前で今までギター弾いてた男が立っていた。
気づけばすでに辺りは真っ暗で、いつのまにこんなに時が過ぎたのか。
「あ……別になんでもないっす」
時間の早さに驚きつつも、肩にケースを担いだ男に答えてその場から立ち去ろうとする。
……帰ろ
「ちょっと待って」
「は?」
急に掴まれた腕。驚いて目の前の知らない男を見る。
「……なんすか」
「そっちこそ」
「は?」
「感想。なんかないの」
……意味がわからない
なんでたまたま立ちすくんだ場所にいた、ストリートミュージシャンに感想なんか求められいるのか。
掴まれたままの腕が痛い。
「……あの、腕痛いんですけど」
「感想は?」
表情一つ変えない男にムっとする。
……なんなんだよ、コイツ
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