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親友②
大通りの歩道橋の下には会社帰りのサラリーマンや遊び帰りのカップル。他にも大勢の人でいっぱいだ。
そんななかで、俺は見ず知らずの男に腕を掴まれてなぜか睨みつけられていた。
……なんだよ。
一体俺が何したっていうんだ。
「……離してくれません?みんな見てんだけど」
呆れたように腕を掴む男を睨みかえすと、その男の視線がさらに鋭くなった。
「だから感想。その態度はなんでなのか感想を聞かせてほしいんだよね。だって、俺ら初対面じゃね?なのにさ、あんたがずーーーっと俺を睨みつけながら突っ立ってるから、周りみんな避けてたんだけど?」
「俺が?何したって?」
「俺を睨んでた、ずっと」
「睨んでません」
「睨んでた」
「いや、つか、そもそもあんたのこと見てなかったし」
「いや、ずっと見てたけど?つか睨んでた!」
なんなんだコイツ。一体俺が何したっていうんだ?ふざけんなよ。
徐々に怒りがこみ上げてきてくる。全く自分には見に覚えがないのに、勝手に因縁つけられているような気分だった。とにかくイライラして仕方なかったんだ。
「ああ……じゃあそうなんじゃないの。まあ、もう見てないんでこれで……」
「これでじゃねえよ。ずっと睨まれてた理由聞かなきゃこっちだって気分悪いんだよ。なに?あんたと俺知り合い?違うよな?」
「知らねぇよ。しつこいな……。そんっなに理由聞ききたゃ教えてやる。あんたの歌がすげえ嫌だったんだ。耳障りで聞きたくなかった!ただそんだけだ!」
「はあ?!」
「言ったからな。じゃ」
「おい、待てよっ」
言いたいことだけ言い切って、男の隣を通り抜けようとすると、すれ違った瞬間に腕をひかれてバランスを崩した。
「ってぇな。なにすんだよ!」
「それはこっちのセリフだ。何あんた一体?何イライラしてんの?あんたが勝手に怒るのは自由だけどさ、理由もなくケチつけて、怒鳴り散らして、周りに迷惑かけるようなことはやめたほうがいいんじゃない?」
「……っ、うるさ……」
引っ張られたままの腕を引き抜いた瞬間、くらりと眼の前が暗くなった。足元がふらつき、思わずその場に屈み込むと、頭の上から慌てたような声がした。
「え、なに……よく見たらすげぇ顔色悪いな。あんた具合い悪かったん?大丈夫かよ。救急車呼ぶ?」
「……や、大丈夫」
そういえば、このところほとんど眠れていなかった。あまり食欲もなかったから、食事もあまりとれていなかった。きっとそのせいだろう。
自分勝手な理由でさっきまで文句言っていた相手の前で急に具合いが悪くなって心配されているなんて。
……俺はいったい何をしているんだろう
関係ないものにあたって怒鳴り付けて……ただの馬鹿だ。
「ははは……」
「……ほんとに大丈夫かよ?」
あまりにも情けなくなって、急に笑いがこみ上げてきた。
目の前の男は俺がおかしくなったとでも思ったのか。先程までの険しい顔から一変して、心配そうな顔をしていた。
「大丈夫……です。あと……すみません、でした。変なこと言っちゃって」
「あ、ああ。それはもういいけど」
無性にイライラして自分が言ってしまった暴言を思い出す。
別にこの男の演奏が酷かったわけじゃなかった。下手くそだから聞きたくなかったわけじゃない。
むしろ、自然に耳を奪われてしまうほどの綺麗な音色で、優しい曲調をアレンジを加えながら弾くその姿は素直にかっこいいと思ったんだ。
ただ、演奏するその姿。
温かくて、優しい音色。
それが、なぜかイヅルと重なった。
……ただそれだけ。それだけの、理由。
あいつの歌声に……あいつに、またしても心を奪われたなんて思いたくなかったんだ。
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