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親友④

 夏休みに入って一週間が経過した。  あの日からダイチとはたまに連絡をとって夜の路上で話したり、あいつの歌を聞きにいってやったりして、そんな風に過ごしていた。  イヅルや南は部活でいっぱいいっぱいなんだろう。連絡すらかかってくる気配はなかった。  ……もちろんオレからもかける気はないけど  もう一週間もイヅルの声を聞いてなかった。  自室のベットにゴロリと横になり天井を見上げる。  ……別に会わなけりゃ、会わないでいられるもんなんだな  今でも、たまにあいつの顔や声を思い出して、それが浮かび上がるたびになんだか胸が苦しくなった。  このまま夏休み中ずっとイヅルと会わなければ、こんな気持ちもなくなってくれるんだろうか。  そんなことを考えながら、寝返りをうち壁を見た。真っ白な壁にイヅルの顔が浮かびあがる。  ーーあのとき、イヅルはまだ何か言いたそうだった。  イヅルが言おうとした言葉の続きが今更ながらに気になった。  ……イヅルは何を言うつもりだったんだろう。  それを聞いてたら何かが変わったんだろうか?  今更考えても答えはわからない。   ベットから起き窓を開けようと立ち上がると、頭の上にあったスマホが鳴り出した。表示画面には少し前には見慣れた文字が並んでいる。  なんてタイミング。  ……イヅルだ。  ためらいながらもスマホ手にとりボタンをおす。 「…………はい」 『あ、ヒナ……久しぶり』  あの日以来だ。  機械を通して久しぶりに聞いた、イヅルの声。 「……久しぶり……」  そこから急に強く討ち始め、頭まで響きだす、心臓の鼓動。 『……毎日暑いな。元気か?』 「あーまぁな。お前は?なんか忙しそうだな」  ……驚いた。  声を聞きたくても話すことが見つからなくて、何を話していいかわからなかったのに。  しばらく空いていた時間のおかげだろうか。不思議と自然に話すことができていたんだ。 『あー毎日部活』 「そっか」  少し疲れたようなイヅルの声。  毎日練習ばかりで大変なのだろうか。 『あのさ……』 「ん」 『来週の水曜日、暇か?』 「え……」  どことなく言いにくそうな様子で話し出すイヅルの声を聞いて、鼓動が早く打ち始める。 「暇……だけど……」 『そっか。俺、その日部活ないんだけど……』 「うん」 『……どっかいかねぇ?』 「どっかって……どこよ」 『どこでもいんだけど……その日夏祭りじゃん?それとか……』 「いいよ」 『……マジで?』 「うん」 『よかったぁー……』  大きな息と一緒にだされる安堵の声。 「……もう、まともに口も聞いてくれねぇかと思ってた」  ………え?  電話を通して聞こえる、静かなイヅルの言葉。 『もう話もできねぇかも、とか、……すげぇ悩んだんだ』  少し安心したように、微笑むイヅルが目に浮かぶ。 「なわけ……ねぇじゃん……」  返答に焦る。  意外だった。それと同時に、なんだか嬉しくて、照れ臭かった。  俺の事で、イヅルが悩んだりしてくれてたんだって事が。  ……ずっと知らなかった。  知ろうとしなかった、イヅルの気持ち。 『……俺さ、ヒナとしっかり話がしたいんだ』  ドキドキと強くうちだす鼓動に、胸の高鳴り。  ……会いたい  会って、イヅルの本心が聞きたい……  沸き上がる思い。  今までの不安やとまどい、迷いがすべてが消えたんだ。  イヅルの言葉に真実が見えたから…… 「……俺もお前と話がしたい」 『うん』  電話を切ったあとも、興奮は冷めやらなかった。 イヅルの言いたかったことがようやくわかる。イヅルの本心が聞けるんだ。  不思議と恐くはなかった。  とにかく早く会いたい。会って話したい。  本当に不思議だ。  ずっと雲のかかったようなモヤモヤした気持ちだったのに、イヅルと話した後はすっきりしていた。

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