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親友⑤

 翌日の昼間。まだらに響く拍手の中心。  去り行く人の群れを通り抜けて、その人物に近づいていく。 「ダイチー」 「おー!またきてなくれたのかよ?ソレはもしかして差し入れ?」 「よく見てんなー」  手をひらひらと軽く揺らして近づく俺の手に下がった買い物袋を見て、嬉しそうにダイチが笑う。 「だってさー夏休み暇なんだもんなー。約束もしなかったし」 「勉強しろよ、勉強」 「誰が言ってんだよ、嬉しいくせにぃ」 「そりゃ……まあ、客が増えりゃ悪いことはないけどさ」 「だろ?それにさ。お前の歌すげぇカッコいいからなー」 「まあな………あー、これまた売ってんだな!懐かしー」  ダイチは軽く答えたあと、少し照れくさそうに袋の中身をゴソゴソしだして、そうして取り出したパンとコーラを開けた。 「そういやさ、ダイチはライブとかやんねぇの?」 「んー……俺、基本一人だからなぁ。仲間あつめんのとか、会場手配すんのめんどくせぇし。ここでこうやって歌っていられれば充分ってゆーか」 「そっか。いや、お前ってマジでいい声してるからさー。なんかここで歌ってるだけじゃもったいねぇって思ったりもして」 「……さっきからどーした。今日、やけに褒めるじゃんよ?なんかいい事でもあったのか?」 「え?」  ダイチが不思議そうに首を傾げて聞いてきた言葉に、自分がそれまでずっと笑顔だった事にようやく気付いた。ハッとして両頬を抑えてみる。 「やけにニヤニヤしてっし、めちゃめちゃ機嫌よくね?」 「や、そんなコトねぇよ」 「いいや。なんかあったろ?あ、彼女でもできた?」 「バカ、ちげぇよ!」  ーー焦る  ダイチのいうとおりに、俺がそんな顔になってるんだとしたら……それは紛れもなくあいつのせいだ。  やっぱり、あんな事があっても俺の気持ちにかわりはない。水曜日が楽しみで楽しみでたまらない。        その日に言われる言葉がなんであろうと、イヅルに会えるという事が…… 「 ナオ?」 「……あ、悪ぃ」 「大丈夫かよ。また倒れんなよ」 「もう大丈夫だっつーの」  腰の位置を変えて座り直し、ダイチの肩を軽く揺する。ダイチも同じようにゆすり返してきて、目を合わせて笑った。  その後再びいろいろ話して一息着いたころ。ダイチが笑いを止めて、ふとこちらを見た。 「なぁナオ」 「ん?」 「さっき俺の歌いいっつってくれたじゃん?」 「ああ」 「前にさ、俺とすげぇ合う奴がいてさ、声の質?が合うってゆうのかな?よく、そいつと一緒につるんでたんだけど、そいつとは1回か2回くらい一緒にやったことあんだ」 「へぇ」  ダイチの話を聞きながら、俺は自分用に買ったコーラの蓋を傾ける。 「遊びで合わせただけだけどな。あれは良かったな」 「ふーん。お前がそんなに言うなら気になるなー」 「俺の親友。今度会わせてやるよ」 「ああ。つーか、そんな良かったならまたやりゃいいじゃん」 「いや、学校とか違うしさ。いろいろ忙しくて無理なのよ。ああゆうのならまたやりたいけど、また相手見つけるのも面倒でさー」 「お前って面倒臭がりだよな」  俺の言葉に軽く笑うダイチ。  さて……と小さく呟いて立ち上がり、再びアコギを構えだした。流れ出した静かなバラードでそこに優しい歌声が重なって聞こえてくる。  ーーやっぱりダイチの歌は上手い  すーっと耳に入ってくる歌声が心地よかった。 そうしてゆっくり瞳を閉じてみると、頭の中にめぐるのはイヅルの姿だった。  ……ハヤク アイタイ  ダイチの優しい歌声と曲調は、あの日のイヅルの歌に重なって胸が熱くなる。  ダイチの親友ってのもこんな曲を歌うのかな。だったらすげぇな。二人合わせたらどんな風になるのかな?そんなことを考えて、軽く笑う。  そうして再びまぶたの奥に写るイヅルの姿に幸せな気持ちに浸る。  その時、俺は特に気にもとめなかったんだ。疑問にすら思わなかった。  ダイチの歌を聞いていると、なんでこんなにイヅルを思い浮かべてしまうのかを。

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