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満開③

 そうしてしばらくじゃれあっていたら、気が付けばもう消灯時間だ。  修学旅行じゃあるまいし、なんでそんなのあるんだよって思うけど。まぁ学校主催の行事みたいなものなんだから仕方がない。 「そろそろ寝なきゃ。明日も大事な試合だろ?」 「だな。しかも朝練もあるし」 「まぁ、頑張れよ」 「ああ、ってまたそんだけかよ」  明日が早いイヅルのためにも、今日はさっさと退散しよう、なんて気持ちでさっさと入口のドアまで歩いてくと、笑いながらイヅルがついてきた。  スリッパを半分足にかけた俺を、壁にもたれかかりじっと見つめている。 「俺たちって付き合い始めなんじゃないの?こうゆうときって別れ際にさー、『好き』とか言わないん、フツー」 「え……な、なな何言ってんだ、お前」  慌てて顔をあげると、ちょっと拗ねたようなイヅルの顔。  こうゆうとこ、イヅルはほんと無意識だから困る。俺だったら照れくさくて言えないこととか、あまり考えずに飄々と口にしたりするんだ。  そのたびに俺の心臓が破裂しそうになることなんて、きっとコイツは知らないんだろう。 「言ってほしいなぁ。だいたいヒナからはっきりそうゆうふうに言われることないもんな。いつもは何でも言うのに」 「それはっ、恥ずかしいからであって……、そう思ってないわけでは、けして……」 「ぶはっ、何、政治家の言い訳みたいなこと言ってんだよ。そうじゃなくて、ただ、聞きたいんだ。そしたら、明日も頑張れるから。……俺はヒナが好きだよ」 「っ……」  部屋の明かりしかない場所なのに、こんなところでもイヅルはまぶしい。  胸がきゅうっと締め付けられる。 「……お前が好きだよ。すげー好き。大好きだ。今日の試合もめちゃくちゃかっこよかった!……って、あーーーー!!もうっ」 「ちょ……急に変わりすぎて驚いた」 「っ、何、ひいてんだよ!お前が言えって言ったんじゃん!」 「……ンキュ。改めて言われると恥ずかしいもんだな。つかヒナ、真っ赤」 「そりゃそうだろうよ!」 「よしよし。よくできました」 「〜〜〜〜っ」  たまにイヅルにペットか何かと勘違いされてるような気がするのはきっと気のせいじゃない。  なんだかずっとからかわれてるような感じがする。でも、そんなのも嫌じゃない。  抑えきれなくなった気持ちを全部言ってイヅルに抱き付くと、イヅルが髪に指で絡め、そっと撫でてくる。なんだか顔が火照るどころか、茹で上がったみたいに暑くて仕方ない。  俺たちはまだ本当の意味で繋がってはいない。  そうゆう雰囲気になりにくいってのもあるけど、でも、それよりも、イヅルもオレもなんだか気まずかった。  周りに人がいるときはずっと友達の感覚で、二人になった途端、恋人の感覚というのがうまく切り替えられないせいか、はたまた、最初があんなんだったからなのか。なぜかその話題はきりだしにくかった。  性欲がなかったわけじゃないし、キスする度に俺はイヅルに抱き付きたいし、触りたかった。  だけど、やっぱり俺もイヅルも男だし。もしなしたら、イヅルはその先を求めていないんじゃないかと思うと、拒否されることが恐くて、それ以上すすめなかったんだ。  でも今日はなんだか違う。  ぎゅうっとイヅルの手に力が入って、それはまるで今日は離したくないといっているようで。何度も重なる唇はこのまま朝までいたいと感じさせる。  薄目を開けたイヅルはまだ優しく俺の髪をといていて。その瞳があまりに熱くて、イヅルも俺を求めてくれている……そう感じるには十分だった。 「イヅル……今日「ヒナ、ありがと」  口にし始めた言葉を遮るようにイヅルが口を開いた。そっと離れる体に、少しだけ冷めた熱。 「すげー元気でた。良し!これで明日も頑張れる」  ニコリと笑うイヅル。それはこれでおしまいと無言で制止されているようで。一歩下がって俺が帰るのをまっているかのようなイヅルに、なんだかがくりとして、物足りなさを感じてしまう。  さっきまであんなに求めていてくれてたのに、今はそんな態度すら見せない。  ……なんだよ。お前も同じ気持ちじゃねぇの?  イヅルの気持ちが……わからない。 「ヒナ」 「んだよ」 「なんで涙声なの」 「ちげぇよ」  イヅルの手が肩にかかって、強引に正面をむかされて。そこにあるのは困ったような顔だった。 「……何その顔。そんな顔すんなよ」 「ごめん」 「ちがっ、そうじゃなくてっ」  ハァ……と、イヅルが大きなため息を吐いて、びくりとした。 ……なんだろう。やっぱり俺だけが勝手にそんなことを考えていたのかな。  そう思って何も言えずにいると、片手で顔を覆っているイヅルの顔が耳まで真っ赤なことに気がついた。 「……そうじゃなくて。俺だって今、すげぇヒナを抱きたいんだ。でも、そうすると抑えが効かなくなりそう。明日大事な試合だし…… ーなぁ、ヒナ。明日の試合勝ったら……勝ったら今度続きしよう」 「お前だって、耳まで真っ赤」 「……うるさい」  そうゆうと赤くなった顔を見られないようにか、またガバリと抱きしめられて、ポンポンと頭を軽くさすられる。  まるで子どもに言い聞かせるような言葉に俺は笑いながら頷いた。  ーーああ。イヅルと早く抱きしめあいたい。早く、繋がりたい。  なんて。俺はいったい何を考えているんだろう。 「オイ、日向ー!お前もこっちきてやろうぜ」 「いや、俺はいいや」 「んだよ、ノリ悪ぃな」  戻った自室でクラスメートが枕投げらしからぬプロレスごっこをしているのを横目で見ながら、窓際に置かれた椅子に座り一人黄昏れる。  到底、一緒に交じれる気分ではない。 「日向!何一人の世界に入っちゃってんだよ!」 「だーー、もうっ!うるせえなぁ。大人の考え事してんだよっ。放っといてくれる?」 「なにそれ!恋わずらいってヤツ!?柄にもねぇ!!」 「なんだとこのヤロっ」  ふざけて絡んでくる斉藤の首を締めながらも、頭の中はイヅルでいっぱいだった。 ……そうして結局、悶々としたまま。静かに夜は過ぎていった。

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