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満開④
当然といえば当然だけど、うちの学校は次の日の試合も全勝した。
手を叩きあって喜ぶクラスのやつらに混ざって俺も一緒になってはしゃいでいた。
しかし、頭の中にふと昨日やりとりが思い出されて、一人赤くなる。
なんか……すげー恥ずかしい……
遠目にさわやかに笑うイヅルが見えて、こんな場所でこんなみんながバレーに熱中してる中で、俺一人がこんな事ばっか考えているなんて。
そう思いながらも、胸の中はそのときへの期待でいっぱいだった。
「日向!」
「!」
ふいに肩を叩かれて、びくりと振り向くとそこにいたのは南。
「?何、お前、すげー顔赤ぇ」
「お、おー、南。うちの学校の勝ちに興奮してさ」
咄嗟にその場を繕った言葉に満足したような南の顔。
「だろー?!俺もマジ興奮だよ!やっぱイヅルハルカはすげぇよな!」
自慢するような南の態度に俺もかなりの上機嫌になった。
「だよなー!3セット目のマッチん時のイヅルのワンプレーがなかったら、多分こんな楽勝できなかったよなっ!今日はストレートもすげぇ際どいラインついてたし、俺の見るかぎり、9割は確実に入ってたね。やっぱアイツはすげぇよな!」
なんだか嬉しくて、ガーッとマシンガンのように話してから、ふと気付く。
……あ。
南の勢いに乗せられて、ついつい口からでてきた言葉。はっと気付くと南がきょとんとした顔で俺をみている。
「……日向ってそんなにバレー好きだったっけ?」
ーーしまった。
ついつい南の調子にのせられてしまった。
「いや、だから、ほら!やっぱ同じクラスのヤツがさ、あんだけ騒がれてりゃ、すげぇなって思うじゃん?!」
「あー……まぁ、うん、そうだよな!!」
「そうそう」
……油断もすきもあったもんじゃない
今の俺はあまりにも幸せすぎて、口を開けば簡単に言葉がこぼれおちてしまうんだ。
会場で整列するバレー部員を見ながら焦る気持ちを再整頓。
「あれ、ところで南。お前なんかしなくていいの?」
「ん?まだ表彰まで時間あるからさ。ちょっとこっちにきてみた。」
コートの端にはチームメイトと談笑するイヅルの姿が見える。
「……でも、本当にかっこよかったんだ」
「……ん?なんかいったか?」
「なんでもねぇよ。よし、下いくか!」
試合中ずっと思ってた言葉。
振り向く南の耳にもギリギリ聞こえないくらいの声で、小さく呟いてみた……
◇
県大会バレー部の優勝から一週間が経過した。
大会が終わればイヅルは少し暇になると思ったらそれは大間違いで。
すでに数週間後にせまった関東大会にむけて、さらなる厳しい特訓が毎日行われていた。
イヅルたちレギュラー選手は朝6時から授業開始まで基礎体力トレーニング。学校が終わるとすぐに個人別の練習プランで、それは寮の門限ギリギリまでぎっしりと組み込まれていた。
まさに朝から夜までの鬼のような練習の日々ってわけだ。
そんなトレーニングを毎日してれば当然といえば当然だけど、休み時間はもちろん授業中のイヅルはいつも寝てた。
先生もまぁ見てみぬフリとゆーか……これだから特待生っつーのはずるいよな。
でもほんとに毎日がそんなんで、イヅルと話すのなんて昼飯のときくらいだった。
それも昼休みのミーティングとかで呼び出される日も多くて。
俺は最近イヅルより南といる時間の方が多かった。
イヅルとゆっくり話をするような機会がなかったんだ。
だから……
『勝ったら今度続きしよう』
……まだあの言葉は実現されずにいた。
別に俺だってそれだけが目的とか、それしか考えてないわけじゃない。ただ一緒にいるだけで話をしているだけで充分幸せだし。
ーーでも
イヅルがあんな事いうもんだから。
あんな事を、真顔でいったもんだから……
どんどん勝手に気持ちが膨らんでしまうんだ。
性別とかなんだとか、そんなものはもうどうでもいい。自分が大好きなやつが自分を好きで、ソイツも俺も同じようにお互いを求めあっている。
ーーただ、それだけの事。
イヅルを思うだけで、胸が締め付けられる。
体が熱くなって どうしようもない。
ずっと誰でもいいって思っていた。
多くは望まない。かわいくて、ちょっと大人しめで、何より自分を好きでいてくれる彼女。それでよかった。それなら誰でもよかった。
でももう、無理だ。
もう、そんなんじゃ満たされない。
今まで自分からこんなにも好きになった相手はいなかった。
だから、わからないんだ。知りたい。早く教えてほしい。
ーーこんなに好きな相手に求められて繋がれたなら、どれだけたくさんの幸福を味わえるかを。
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