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all for one②
「あ、くそー!ちょっと遅かったか」
体育館に着いたころ、すでに試合は終わっていた。88対62でうちのクラスの負け。
「マジでーー!でもまぁ、準優勝だもんな!すげぇよ」
「そうだな」
正直、口々に話す回りのやつらの声は、あまり耳に入って来なかった。適当に相槌をうちながら辺りをみわたすと、まだ試合を終えた直後、コートの中に汗だくで挨拶をするイヅルがそこにいて。
今日初めて見るイヅルの姿に胸の高鳴りを感じてしまう。
もう試合は終わっている。
仲間とさわやかに肩をたたきあい、ただ普通に会話する。ただ、そんな普通の仕草なのに、俺の視線はイヅルだけに釘付けになってしまうんだ。
体育館前で立ち止まる俺らに、試合を終えてでていこうとするイヅルたちが近づいてきた。
「おー!お疲れ!」
「……まぁこんなもんだろ。お前らは?次準決?」
「いや決勝よ」
「マジで?俺らこれで終わりだから応援しにいくわ」
「うわ、緊張すんじゃん」
佐々木と高野の会話を聞いて隣で一緒に頷いた。
……マジでそのとおりだよ。
応援は嬉しいけれど、緊張しすぎて試合になんかなんかならないかもしれない。
ちらりと右斜め上を見れば、真近にあるイヅルの顔。俺の視線に気付いた瞬間、その瞳が動く。
そうしてイヅルの視線が俺のそれと重なると、ふっと優しく笑った。
「ヒナ、試合見てた?負けちゃった」
イヅルの手が自然に俺の髪を撫でる。
……何だそれ。負けちゃった、って。
どうしよう……イヅルがなんだかめちゃくちゃ可愛い。
しかも髪!なにすんだよ……嬉しいけど。でもみんな変に思うじゃん……!
「あ、い今終わったから、み、見れなかった」
焦りながらもその手を振り払うことができなくて、バクバクした鼓動を落ち着かせようと必死に言葉を発すると思いっきり吃ってしまった。
「そっか」
イヅルは小さく呟いて、髪から手を離す。その行動を名残惜し気に見つめていると、ふいに俺の隣からひょいと顔をだす佐々木。
「なんだよ日向ー。イヅルとラブラブじゃん」
「なっ」
気にしなければいいのに俺はバカだ。佐々木のからかうような口調に、大袈裟に反応してしまった。
そうして、さらにとどめをさすようなイヅルの言葉に、もうどうしていいかわからない。
「だって俺たち、つきあってんだもんなー?」
……びっ……くりした
心臓がとびでるかと思った。
イヅルがすげぇ優しい顔して、俺の髪を撫でる。俺は何も言えなくて、ただ唖然としてイヅルの顔を見つめていた。
「はは!やっぱそーかよ!イヅルの彼女?が日向だったらなかなか他の女子は勝ち目ねぇなー!」
「つーか……髪、触んなって!」
「あはは」
イヅルに便乗して俺の頭をワシワシと撫でる佐々木の手は、なんとか振り払った。
……そ、うだよな……
誰も信じるわけねぇよな、普通。
ほっとした半面、少し寂しい気分にもなった。
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