58 / 120

all for one③

 ふと見上げるとイヅルが無言で頷いてんのが見えて、それをみていたらなんだか安心できた。 「じゃー俺たち、そろそろ決勝だからいくわ」  ーー15時。試合開始まであと30分くらいだ。 「頑張れよ。俺もあとでいくから」  すれ違い様、イヅルにポンと背中を叩かれる。  触れられたそこから伝わる熱が、一気に全身にまわる。たったこれだけのことなのに、なんてすごいパワーなんだろう。 ◇  やっぱり決勝とゆうだけあって、試合はそれなりの緊張感をもって開始された。  体育祭も終盤で、他の試合を終えた他のクラスのやつらや他学年のやつなんかも集まって、大勢のギャラリーがいた。  そんな中にうちのクラスの連中もいて、そこに一際目立つイヅルの姿。  ……うわ、マジで緊張してきた  辺りを見渡してから、思わずパッと視線を外す。  コートではシングル3の田中の試合。  今回のテニスはダブルス1、2とシングル1、2、3の5試合。  先に3試合制覇すれば優勝が決まるってわけで。 すでにダブルス1、2をとられていて、俺たちはあとがない状況だった。 「田中ーねばれーっ」    なんとかリードする田中の応援に熱中する。  でも、まわりの熱い声援は逆に静まって聞こえていた。  今、俺の中に聞こえるのは自分自身の心臓の音。  ドクンドクンと脈打つ中で、次の試合を考える。  ……まずい。自分のコトで頭がいっぱいになってきた  俺はシングル2。シングル3の田中が負ければ試合終了。俺に続いたとしても、俺が負ければ試合終了。  プレッシャーがのしかかる。  体が、重い。  ふと気付けば、ピーッと聞こえる試合終了の笛の音。  スコアは……勝ってる。  喜びながら帰ってくる田中に、ぎこちない笑顔で答える。 「次は日向だな!お前にかかってるぜ」 「あ、ああ」  ……自分がこんなにプレッシャーに弱いなんて思わなかった。  言われた言葉がズシリと胸に突き刺さる。  ……やばい。どうしよう。  体が重くて、鉛のようだ。  あまりの緊張感で指先が震える。 「頑張れー」  周りの声援が遠く聞こえる。 「おい日向、大丈夫かよ。なんか顔色悪いぞ」  佐々木の一言で、はっとする。  緊張しすぎて吐きそうだ。  時計を見ればまだ数秒しかたってない。試合の合間には作戦タイムを含んだ休憩時間があって、俺の試合まではあと15分はある。 「緊張するとダメなのか?便所でもいってリラックスしろよ」 「……悪ぃ、ちょっとそうする」  試合から戻ってきた田中になんでだよと突っ込みたいのに、そんな余裕もない。ふと覗きこむ顔を見上げたら、その中にイヅルの姿を見つけて驚いた。 「……イヅル、なんでココに?」  そんな疑問を口にすると、にこりと笑ってかえされた。 「ヒナと一緒に便所いこーと思って」  田中の冗談にノって、いたずらっぽく笑うソノ顔。  ぶぶっと笑いだすヤツラをよそに、俺は一人ほっとしていた。  ……もしかして俺の様子に気付いて、そばにきてくれたのか? 「あいかわらず仲がいいな!俺も一緒にいっていい?」 「ダメ」  田中の言葉に思わず即答する俺。隣をみればぷぷっとイヅルが笑っている。 「イヅル!急いでいこーぜ!あと10分ある」 「あいよ」  俺たちはこれみよがしに肩をくんで体育館横のトイレに向かった。

ともだちにシェアしよう!