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all for one④

 堂々とこんなことができる機会なんてない。  俺たちはトイレに着く直前まで笑いながら肩をくんで歩いた。  たった数歩の短い距離なのに、なぜかすごく長い時間のようだった。普段人前で触れるコトなんてできないから、変な気分だった。  さっきまでのくだらない緊張なんか、一瞬で吹き飛んでしまった。  まわりの好奇の目も笑い声も、すべてが快感に思えた。 ◇ 「……」  誰もいないトイレの個室にはいるなり、どちらともなくキスをした。  ……久しぶりだった。それだけで体中の余分な力がぬける。 「……ヒナ、さっき危なかったろ?お前ってプレッシャーに弱いのな。緊張するとなんかおかしくなるよな?」  唇を離したイヅルが俺をみつめる。 「……やっぱり。だから来てくれたんだな」  みていてくれて、わかってもらえて、変化に気付いてくれていた。充分すぎる。  体の繋がりばかり気にしていた自分がひどくバカみたいに感じた。  ……俺たちは心で繋がっている、なんて。  イヅルの言葉や表情から、自然とそう思えたんだ。 ◇  ピーーー  トントンと転がるボール。  試合終了のホイッスル。  緊張のとけた試合はあっとゆう間に終わった。  リラックスした体は羽根のように軽くて、いつもより数倍はいい動きができた気がする。  相手のヤツがにこやかに笑って握手を求めてきて、俺も笑いながらその手を握った。 「お前強いじゃん」 「んなコトないって」  向き合って、礼をして、ベンチサイドへ戻れば、みんなにもみくちゃ状態。 「日向ー!お前、体調ワリィっつってたからダメかと思ってた!」 「よくやった!」  ワシワシと頭を撫でられて、必死でソレを制止する。 「あーわかったわかったから!頭撫でんなっ!セットが乱れるっ!」  みんなで大爆笑して、残るは佐々木のシングル1だ。 「佐々木ぃ、頑張れよ!」 「任せとけっ!」  コートに向かう佐々木にエールを送る。 「頑張れよー!!」 「優勝!優勝!」  いつのまにか周りにはうちのクラスのやつらもきていて、イヅルや南も俺の隣で一緒に応援する。  それに答えるように佐々木は見事に試合を制覇。  最後に、一緒に練習したミラクルサーブがバッチリ決まった。 「やったー!!」  隣のイヅルと南の肩を叩く。 「よかったなー日向。お前らすげぇ練習してたもんな」 「……泣くなよ」  イヅルの言葉にはっと目尻を擦る。 「な、泣いてねぇよ!嬉しいだけだっ!」  笑うイヅルと南から離れ、試合を終えた佐々木に駆け寄る。 「佐々木っ」 「やったーー!!」  もどってきた佐々木と抱き合って、お互いに喜びあった。  クラスのやつらもめちゃくちゃ喜んでくれて。  なんだか、みんなの気持ちが一緒になったような不思議な一体感を感じた。  なんで涙が滲んだのかはよく分からなかった。  ただ、自然と気持ちが高まって、自然と目頭が熱くなったんだ。  ……たんなる体育祭。 なのに、俺たちは毎日一生懸命練習したんだ。楽しめたらいい、ってそんな思いだったけれど。休みの日も集まって誰もいないグラウンドで体力作りなんかしてみたり。部活にも入ってない暇人の俺たちだからできたことなんだけど。でも、必死で練習して勝ち取った試合はめちゃくちゃうれしくて。  優勝は、すごい達成感だった。  ……イヅルは  イヅルはいつもこんな気持ちを味わっているんだろうか?  横目で見る、イヅルの姿。  みんなで真剣に何かに取り組んで、勝利掴む喜びをはじめて知った気がする。  それをずっと知っていて、ずっと感じているだろうイヅルは俺にとってやっぱりまぶしくて。  ……今更ながらに、少し、羨ましかった。

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