64 / 120
1対2①
シャンシャンと鳴り響く鈴の音に、いつのまにか飾り付けられたイルミネーション。
街中がなぜだかいつもより明るくみえるのは、どの店からも軽快に流れる音楽のせいだろう。
11月も終わりに近づき街中が少し早いクリスマスカラーに染められている。
俺は鮮やかに飾り付けられた木々にかかる、赤と緑のテープの波を見つめながらゆっくり歩く。
時折、ビューと冷たい風が吹いて、巻きつけたマフラーと帽子を抑えながら空を見上げた。
「もうすっかり冬なんだもんなー」
……早いもんだな
高校にあがって、はじめてのクリスマスだ。気づけばあっとゆうまに半年がたっていた。
イヅルと出逢ってから、もう半年。
そんなことを考えていると、いろんな出来事が頭を巡る。
はじめて話した入学式、はじめてアイツのバレーをみたときの感動、はじめて喧嘩して本音を語った日、そして、告白した……その日。
感慨耽って、はっと気付く。
……何を感傷的になってんだ、俺は
寒い季節の冷たい風に、心まで淋しい気分にさせられる。
ーー今、自分はすごく幸せだと思う。
大切な家族がいて、楽しい学校があって、そんで……イヅルがいる。
でも、たとえ満たされた心でも、やっぱり切り裂くような冬の寒さは身を凍えさせるんだ。
……寂しい
「あーあ」
こんな派手なイルミネーションをみて、淋しくなる理由はただ一つ。
イヅルに会えない。
……ただ、それだけ。
◇
あのあと、バレー部は県大会を当然のように勝ち進み続けた。
全国のその舞台でもまわりの強豪に負けずおとらず、あっとゆうまにベスト4に入り込んで、結局今年は優勝とまではいかなかったけど、出場メンバーの知名度は一気にあがった。
中でもイヅルは中学の時から注目を浴びていたんだ。今月発売されたバレー専門雑誌のトップを飾るのも、納得がいく。
そのおかげで、学校の中でだけじゃなく、街を歩くだけでみんなの視線を浴びるようになってしまったんだ。
「あの人、こないだテレビにでてたよね?」
「あ、あのうまい人?しかもすごくかっこよかったよね!」
全国の高校バレー中継だけならまだしも、しばらく地方テレビのニュースに引っ張りだこになり、その上インタビューなんかも受けてしまったせいで、ファーストフードでハンバーガーを食べるだけでも、まるで芸能人並の注目だ。
『こないだテレビでやってたばっかだし、雑誌なんかにのせられたから仕方ねぇよ。少したてばほとぼりも冷めるって』
当の本人はあまり気にしている様子もなくて、前にも増して近寄ってくるたくさんの女子や、はやしたてる周りの奴らにも笑顔で答えている。
……けど
「……なんか、ムカつくんだよな……」
暗い夜空をみて、ハァとため息がでる。
ふわふわのぼる白い息をみて、ふと立ち止まった。
ーーそう、俺が。
俺が、イライラしてしまう。
笑顔で答えるイヅル。
困った顔のイヅル。
バレーをするイヅル。
本人さえ気付いていない、両手首を頭の後ろで組むささいな癖までもが。
テレビで、雑誌で、目の前で。目にするたびに沸き上がる焦燥感。
……知られたくない。
俺のアイツが、俺だけのイヅルが、とられてしまうような……不安。
「……何考えてんだ……俺」
こんなに自分が独占欲の強い人間だったなんて、今まで知らなかった。
ともだちにシェアしよう!