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1対2③

◇ 「クリスマスパーティ?」 「そうそう!」  翌日、朝練を終えて疲れきっているイヅルの前の席を陣取り、久々の2人だけの空気を楽しんでいたところに急に現れた南。 「って何、誰呼ぶん?」 「えーと。バレー部の寂しい男どもと、うちのクラスの寂しい男どもと……」 「男ばっかじゃん」 「大丈夫!女を集めるのはイヅルハルカの担当でありますっ!最近のイヅルハルカ人気はすげえからな。一声かければ……」  威張るように声をはる南が、企むようにふふふと笑い出す。その時机に突っ伏して寝たフリをしてたイヅルがだるそうに顔をあげた。 「……んだよソレ」 「あ、なんだよ。起きてた?」  ふあぁと大きなあくびをしながら、眠そうな瞳をこする仕草。 「起きてた?、じゃねぇよ……すげぇうるせぇ。起きちまったんだっつーの」  ジロっと南を睨んで、再び机に突っ伏す。 「……俺はいかねぇぞ」 「え!嘘だろ?!お前いくってみんなにいっちまったよ!」  びっくりしたようにとびはねる南をちらりと瞳だけで追うイヅル。 「だるい。なんかもー、最近いろいろ疲れるし」 「んなコトいうなよー!みんなお前が目当てなんだって!」 「嫌だ。俺そうゆうの嫌い」 「イヅルハルカぁ~」  頼むといわんばかりに両手を合わせておがむ南。  南もこんなに頼んでるんだし、パーティにでるくらいしてやってもいいのにな、なんて軽く思ったから。ふと何気なく口から漏れた言葉。 「いってやればいいじゃん、イヅル」 「日向ー!」  救いを求めるように南が、こちらを向く。  ……別に深い意味はなかったんだ。  ただ、あまりにも南が一生懸命頼み込んでるから。なんとなく、口にした一言。 「いってやりゃいいじゃん、イヅル。俺もいくし」  軽く笑って、イヅルを見つめる。  ……けど。  なぜかイヅルが一瞬すごく驚いた顔をして、眉をしかめた。  次の瞬間、ガバッと立ち上がり歩きだす。 「イヅルハルカ!」 「……便所」  つられて咄嗟にたちあがる南に一言答えて、廊下にでていく。残された俺と南は、しばし沈黙。 「……なぁ、日向ぁ。イヅルハルカ、最近機嫌ワリィな」 「うん。疲れてんだろ」 「つーか、今もすげぇ怒ってなかった?」  ひそひそと声を小さく呟く南に笑って答える。 「大丈夫だって!アイツだって人間だって事だ」  不思議そうに首を傾げる南をおいて、たちあがる。  ……なに怒ってんだ、アイツ。  南にはそういったものの、イヅルの反応が気になった俺は、ヤツの後をゆっくり追い掛けた。 ◇ 「ヒナ、さっきなんであんな事いったん?」  トイレの後、俺らはいつもの裏庭へと続く通路にいた。壁に体重を預けて、頭の後ろで腕を組むイヅルの隣に俺は座り込む。 「え?」 「南に。『いってくりゃいいじゃん』って……何ソレ。」 「あーー……」  上を見上げると、機嫌悪そうなイヅルの顔。  ……なんでだ?マジで、なんか怒ってる? 「いや、南困ってたしさ。参加してやるくらいいいじゃん?みんなで騒ごうぜ」  少し居心地の悪い雰囲気をなごますように明るく笑ってたちあがると、なんとなく冷たい視線とぶつかる。 「……みんなで、ね。うん、いいんだけどさ、別に……ヒナがそれでいいなら」 「……え?」  ……なんだソレ  少し遠くを見つめるイヅル。  なんだかその頬が、少し赤いような気がするのは気のせいだろうか。 「イヅ……」 「授業始まる。いこーぜ、ヒナ」  問い掛けようとしたそのとき、遮るようにイヅルが振り返って笑う。 「お、おう」  なんとなく疑問を残したままで、チャイムのなる少し前に教室までの道のりを急いだ。

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